春から夏へ(1) TIGER&BUNNY 【52万5600分】Seasons Of Love Five hundred twenty-five thousand Six hundred minutes CHARTREUSE.M The work in the 2014 fiscal year. 春から夏へ 「ライアン元気でやってるみたいですね」 隣のデスクでバーナビーがそう呟いた。朝から何を熱心に見ているのかと思ったら、一瞬だけコンビを組んだ元相棒、重力使いのライアン・ゴールドスミスの活躍記事だった。 虎徹は彼とは殆ど面識がない。例のジャスティス祭事件の最後に一緒にHERO TVに映っただけの付き合いだったので彼の内面について全く知らないのと同義だ。数日間とは言え今自分がついているこの席に座り共に仕事をしたバーナビーの方が彼を良く知っていて当然だ。きっと何か思うところがあるのだろう。 初めてコンビを組んだとは思えない見事な連係プレーは虎徹も良く覚えている。 要するにバーナビーはヒーローとして類稀な才能を持っているのだ。多分自分でなくても誰とであってもバーナビーは充分やっていける。それを確信してしまい虎徹はなんともいえない気分になったのを思い出す。俺はバニーがそう思ってくれている以上に価値が無い男だ。必要とされたい、そういう自分でありたいと思い続けてきたけれど、それが思い上がりだと思い知らされてしまった。ライアンは全然悪くないのだけれど、彼を観るとそんな絶望的な気分を思い出してしまい卑屈になってしまう。正直自分の矮小さに自分で呆れてしまう程だ。 虎徹はどう答えていいのか判らなかったのでバーナビーのその科白に「そうだな」と小さく頷いた。 「? 何か?」 虎徹がじっと自分を眺めている気配を感じたのだろう、バーナビーが新聞を折りたたみながら怪訝そうに聞く。 虎徹はそそくさと視線を外して「あいつの方がお前に相応しかったんじゃないのか」と正直な気持ちを言う。バーナビーはまーた言ってると鼻を鳴らした。 「それ何十回言うんです? もう一回言ったら酷い事しますよって僕言いましたよね」 「でも、な、その――な」 「この話はもうお終いです。失った能力を取り戻すのが無理なら、それに代わるものを考え出せばいい。一番最悪の事態は逃れたんです。N.E.X.T.でなくなってしまえばそこで物語は終わりだった。でも貴方はまだN.E.X.T.なんでしょう? 1分でも充分に戦えると貴方は証明してみせた。それでいいじゃないですか」 「でも・・・・・・」 「どうしても拘るんなら続きは家で」 虎徹は飛び上がった。 「いや! 待て! 昨日の今日で俺ついてい」 「いい加減仕事してください。雑談する為にここに来た訳じゃないでしょう」 「いや待って、仕事はするから、そのなんだな」 バーナビーが眼鏡をきらりと光らせながらじろりと虎徹を見やる。その後完璧に無視をし通した。 「あの、バニー、バニーちゃん、バニー、さん?」 こうなってしまうとバーナビーは頑なだ。 またやってしまったと虎徹は顔を押えながら席に着く。ああ、薮蛇だった、口実を与えてしまった〜と虎徹は後悔するも遅かった。 鼻を啜りながらパソコンに向かう。とりあえず今日のノルマ、というより活動報告書を仕上げて提出してしまう事にしよう。 [mokuji] [しおりを挟む] |