A secret novel place | ナノ
冬から春へ(3)



 遊覧船から打ち上げ花火のように飛び立った二人は、5分後には見慣れた虎徹の住むストリート、その公園近くに到着していた。
虎徹のハンドレットパワーが途中で切れてしまったので、バーナビーが道中半分ぐらいは抱いて走った。
その間に虎徹とバーナビーの服は端の方から凍り始めていた。
湾岸部に比べればその寒さ多少ましになるとはいえ、現在のシュテルンビルトの平均気温はマイナス12度だ。
公園から虎徹の家までは二人で一緒に走っていたが、バーナビーはともかく虎徹はもう歯の根があっていなかった。
 めっちゃ寒いー、たまんねー等と言っている。
そうこういううちに虎徹のフラットについた。手がかじかんで上手くドアに鍵をさせないらしい。暫くもだもだしていたがやっと扉が開いた。
「凍る凍る、がっちんがっちんだぜ」
 虎徹は歯をがたがた言わせながらぶるっと身震いして部屋の中へ入る。それから一直線にヒーターへ向かうと暖量を最大にしてスイッチを入れた。
 くしゅっ。
盛大なくしゃみをして何故かそのまま奥へ向かう。
バーナビーは玄関を施錠してからリビングに上がりこんだが、暫くきょろきょろとあたりを見回していた。
年末数日間泊めて貰っていたが、そこまで観察する余裕がなかったというのもある。
改めてみたのだが驚くほど配置が変わっていない。自分のうちならともかく虎徹のあの部屋を以前のように再現とか可能なのか、思い違いかと思っていたのだがやっぱりそうだったとバーナビーはびっくりする。そしてちらかりぶりも全くそのままだったので、一度虎徹がこの部屋を引き上げたのは幻だったのかと一瞬思ったぐらいだった。
「虎徹さん、そこの奥の部屋なにがあります?」
 以前から何度も訪ねているのに謎の部屋、そう虎徹が借りているこの賃貸物件は2.5階という不思議なつくりになっており、外から見たとき二階に当たる部分は所謂ロフトなのだ。そしてどうやら一番上にもう一部屋あり、更に不思議な事には玄関から入って直ぐに横に向かう扉がある。もう一室別に存在しているということだと今突然気づいたのだった。案の定、その部屋の中だろう遠くから虎徹の「ものおきー」という端的な返事が戻ってきてバーナビーはやっぱりなと思った。
虎徹がばたばた戻ってくると、両手に何か抱えている。何かと思うとそれはどうやらアイロンのようだ。アイロン台まで抱えてきたので異様な大荷物に見える。
「寒い! バニーその服脱げ! 服は貸してやるから、そのまま駆け足で風呂場だ!」
「えと、このままヒーターで乾かしますよ」
「だめだめだめ、そんな濡れっぱなしでヒーターの前に立つな! 床が汚れるだろ!」
「ええ? でもそれは後で拭きますから」
「だめだめだめ! 今ついでに風呂入れてきたから、とりあえず脱げ、回れ右、今すぐ風呂!」
「ええーでもー」
「だめだめだめ、今すぐ! 俺は風呂に入りたい! お前と!」
 最後の科白でバーナビーはなーんだとちょっと笑って鼻から息を吐き出した。
「了解、じゃ先に入ってますよ」
「そうそう。洗濯機に服は全部いれといて。クリーニング出さないとまずいのはハンガーにかけといて」
「はいはい」
 虎徹はどかっとアイロンとアイロン台をリビングに置くと、その場で上着を脱いでバーナビーに押し付けた。
「これ先に洗濯機に突っ込んどいて」
「了解」

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