バンパイヤ 1.シュテルンビルトへ来た獣(1) TIGER&BUNNY 【バンパイヤ】The therianthrope CHARTREUSE.M The work in the 2012 fiscal year. 1.シュテルンビルトへ来た獣 犬が良く騒ぐなあとバーナビーは思った。 その日は不気味なほど月が赤く、薄っすらとした灰色の雲が月の回りにおどろとした弧を描き、なにやら不吉な予感を漂わせている。 近頃シュテルンビルトでは、野生動物の被害が多発しており、市民に注意が呼びかけられていた。 シュテルンビルトは自然保護区のど真ん中に存在している国でもあったため、野生動物の侵入による被害が往々にしてある。 その侵入する動物が実は問題で、絶滅危惧種であることも少なくない。 都市の周りにそういった害獣を防ぐシールドを張る技術が確立されているのだが、自然保護区内に成立した国だけあって、シールドで阻まれて命を落とす動物の大半が、所謂レッドリスト入りをしている希少動物であるのだ。その為パワーを搾って展開するのを余儀なくされ、結果害獣の侵入を容易く許してしまう。 更にそうして侵入してきた害獣を勝手に射殺したり排除したりするのは論外で、出来るだけ傷つけずに捕獲し、元の山野に戻してやらなければならないのだが、正直バーナビーはそんなのめんどくさいなあと思っていた。 バーナビーはこの巨大三層都市国家シュテルンビルトのゴールドステージに住む支配階級NEXTで、Five minutes One hundred powerの持ち主。 シュテルンビルトにおいて、NEXTに目覚めた者は全て国に登録管理されることになっており、能力とそのコントロール、適正などを毎シーズン計りランク付けされるのだ。 更に世界で最もNEXTに対する扱いが公平であり、自由の国と名高いシュテルンビルトでは、ヒーローシステムという独自の管理機構が導入されており、SA級、S級と認められた者にはヒーローという称号を授け、出自に関わらず特権を与える。 同時にシュテルンビルトを守護する責務を負うこととなっていた。 こういった害獣駆除も市民を護るためにヒーローに課された義務の一環だったので、バーナビーは最下層へ久しぶりに降りてきていた。 ブロンズステージは三層構造都市の土台に相当するが、大半は美しく整備されていて、ゴールドステージと特に変わらない。 むしろ中流階級者が数多く住み着く、レンガを色調にした落ち着いた風情の活気ある街で、バーナビー自身はゴールドステージよりもブロンズステージの方が住みやすそうだなと常々感じていた。 なんというか、人の営みと温もりを感じられるからだろうか。 ゴールドステージは近未来的なデザインになっており、シャープで前衛的ではあるが、人間的温かみには欠けているように思える。 許されるなら、せめてシルバーステージの方に居住を移したいとバーナビーは漠然と夜空に思った。 左手のPDAが唐突に作動し、バーナビーはぴくりと反応する。 通信主は友人であり、同じヒーローでもあるエアマスターのキースだった。 「バーナビー君どうだい? 動物は見つかったかい」 「今のところ見つからないですね・・・、犬が騒いでるんですが、番犬なのか、それとも野犬が入り込んでるのかの区別がつきません」 「そうか。 今上空から見てるんだが、私も見つけられない。 野犬でブロンズステージにいるようなら視認は難しいかな」 以前は上空から発見できたのだけどね、とキースが言うので、バーナビーは噴出した。 「グリズリーはもう勘弁してもらいたいですよ」 「いや、前回ので勝手が判ったから、今度は最初から私が風で運搬して森に放ってこよう」 「そうしてください」 バーナビーは苦笑する。 前回は、灰色熊が侵入してきて、バーナビーが力ずくで取り押さえることになったのだ。 結構凶暴で、取り押さえて気絶させたあと、キースと共に山奥に運搬して開放したが、後から身体を見てみたら、ヒーロースーツ一面に物凄いひっかき傷が出来上がっていた。 生身でなくて良かったと、あの時は本当に肝が冷えた。 まあ、ともかくと、バーナビーがキースに言う。 「もう一周この界隈を回って、異常がないようなら今日は撤収します。 野犬なら警察に任せてもいいと思いますし」 「そうだな。 では私も戻ろう、そして帰ろう」 バーナビーは微笑して通信を切った。 さて。 あたりを伺い、バーナビーは再び歩き始めた。 ブロンズステージのその遊歩道には人の気配がまるでない。 深夜の外出は控えるようにと市民に通達してあったが、見事なまで注意が行き届いているようだ。 野生動物の被害は意外に恐ろしくて、一度など、野生の鹿と車との衝突事故で死者まで出た。 肉食草食に関わらず、自然の生き物は全て危険なものなのだ。 特にブロンズステージは最下層であり、地上の動物が侵入しやすい。 その為夜遊びするならみな階層を上がっていっているのだろう。 まあ、僕は楽でいいですけどね、とバーナビーが思っていると、一際甲高い犬の鳴き声が聞こえてきた。 激しい息づかい。 これは、群れだ。 結構いるかも知れない。 やはり野犬だったのかとバーナビーは思い、喧騒が聞こえる方へと駆け出した。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top ←back |