バンパイヤ 3.獣の矜持(2) この際、タイガーも利用したらどうだい? 斉藤はそう言った。 このタイミング、この場所でこのNEXTが、虎徹が現れたということは、何かの啓示なのかも知れないなどと。 「タイガーさあ、バーナビーの事好きかい?」 斉藤がそうあっけらかんと聞いたので、バーナビーの方が焦ったぐらいだ。 虎徹は笑顔で、バーナビーは俺のリーダーだからな!と屈託無く応えていて、バーナビーはくらくらすると同時に胸が詰った。 斉藤がじっと自分を見つめているのが判って、暫く考えを巡らせた後、バーナビーは意を決する。 虎徹はきょとんと自分を見上げていたが、それを見下ろしながらバーナビーは苦く語った。 「僕の両親は、僕が4歳の時に何者かに殺されました。 それは恐らくこのシュテルンビルトの宿敵である、ウロボロスという組織の人間の手にかかってのこと、だといわれてます。 そして多分事実なんでしょう」 虎徹は小首を傾げた。 でもじっと、バーナビーの言葉に耳を傾けている。 「ウロボロスはこのシュテルンビルトでは敵、と同義語です。 シュテルンビルト独立時から、諍いが絶えず、シュテルンビルトで起こる殆どの犯罪はこのウロボロスのせいだと言われています。 僕の両親はその犠牲になったのだと」 斉藤がみじろぎした。 虎徹が斉藤を見て、また視線をバーナビーに戻す。 「実体は未だ不明で、構成人数やその思想なども良く判っていません。 僕は4歳の時からずっと、それについて考えを巡らせ、ウロボロスについて独自に調査を行ってきました。 そんな風活動している間に、同じようにウロボロスについて探る同志にも恵まれました。 その一人が斉藤さんです」 虎徹はじっとバーナビーを見ている。 バーナビーも一旦言葉を切って、虎徹を真正面から見据えた。 「・・・・・・その結果、僕はそのウロボロスの関係者として、自分の養父でもある伯父、アルバート・マーベリック氏を疑うようになりました。 ただし、証拠が無い。 目的も理由も、実際彼が黒なのか白なのかも実は解っていません。 ひょっとしたら潔白であるのかも知れません。 まだ何もかもが謎なんです。 それを確かめるためにも、虎徹さん、貴方の力を借りたい」 「俺がそれに力になれるって?」 バーナビーは首を縦に振った。 「近頃、マーベリックさんはロトワング教授という、NEXT研究の第一人者をシュテルンビルトに召還しました。 一応亡命という体裁を整えていますが、十中八九間違いなく、マーベリックさんがここへ呼び寄せたのです。 ロトワング教授は、変身人間という考えに固執していました。 NEXTの間では、マッドサイエンティストとして、警戒されていた思想を持つ男です。 彼は前々から、NEXTを管理、調教し、ヒトとは切り離して考えるべきだと主張してきました。 理由はヒトにとって危険だから、という事だそうです。 更にNEXTは46年前に現れた人類の新しい進化の形ではなく、古来から生息しているヒトとは相容れない別種なのだと、そう主張しているんです」 「間違ってないんじゃないの?」 虎徹がそういって、斉藤が虎徹の頭を軽く小突いた。 「君はNEXTではないかもしれないが、バーナビーはNEXTに相違ないんだよ。 大体それを認めたら、君は家畜のように飼われることになるんだがそれでいいのかい?」 「俺は獣で構わないんだけどな」と、虎徹。 別にシュテルンビルトでヒトとして生きていけなくても、森へ荒野へ、山野でもいいけど、好きなところで好きなように生きればいいじゃねえか、と銀黒の耳をぴくぴくさせながら言った。 本気だということはバーナビーにも判ったが、苦笑してその考えを却下した。 「僕はヒトです。 獣ではない。 変身出来ないし、森や荒野や山野じゃ生きていけません。 貴方は今僕に服従する義務を負ってるんでしょう? だったら協力してくださいよ」 「判った」 アッサリと虎徹が了承したので、バーナビーは更に苦笑し、わかってるんですか貴方と聞いた。 「判ってるよ。 バニーちゃんはヒトだけど、俺のリーダーだ。 獣としてもヒトとしても、お前を愛してる」 そう真顔で言われて、バーナビーは瞬時に顔が赤くなるのを知る。 斉藤がなんだか嬉しそうに言った。 「バーナビー、タイガーを信じておやりよ。 これは忠犬だと僕は思うよ」 「犬じゃないよ、狼!」と虎徹が不満げに突っ込んだが、それは黙殺。 「虎徹さんが危険になる・・・」 「完全獣化NEXTってだけで十二分危険だよ。 今更だよ」 「でも」 「なんだか判らんけど」 虎徹が言った。 「お前が俺を必要としてくれる事の方が嬉しいよ。 俺に出来ることならなんでもする。 大丈夫、お前は俺に命令してくれればいいんだ」 バーナビーは虎徹に手を差し伸べてその頭を撫ぜた。 大きな銀黒の耳が、手の甲に当たって気持ちがいい。 バーナビーは顔を綻ばせて、虎徹の身体をやんわりと抱いた。 「お願いします、協力してください」 「いいとも、バニーちゃん」 こうして、虎徹はバーナビーの指示に従って、シュテルンビルトで暗躍するウロボロスという、実体不明の存在に対して反旗を翻す事になる。 獣としての矜持を携え、バーナビーの両親の仇を探るために。 バーナビーは虎徹の身体を抱きしめながら思う。 ウロボロス、今度こそ必ず尻尾を掴んでやる、と。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top ←back |