プロローグ NC2103 明らかに東洋系と判る滑らかなクリーム色の肌、綺麗な黒髪。 三世代以上前に混じったであろうアングロサクソン系の血が今になって発現したのか、瞳は美しいブルーグレイ。 宵闇迫る夕暮れの空の色をしたその透き通った瞳は、一見少女と見紛う程のユニセックス的な外観と良く似合っており、更にはNC2000年代には殆ど死に絶えてしまった日系人という希少性も相俟って、虎太郎は良くモテた。 子供の生まれにくいこの時代、人々は早く結婚するように奨励され、子供を作る事は義務となっていた。 しかしその人が持つ固有の力、かつてはN.E.X.T.と呼ばれたその遺伝子が子孫を残す事を非常に難しくしている。 人々はみな都市管理コンピューターにその遺伝子情報を記録し、自分と子供が作れる相手を遺伝子情報のマッチングから探す。 16歳になって生殖可能と見なされた者は、機械的に選別され、お相手を毎月紹介されるシステムだ。 恋愛は自由でみな積極的ではある。だがこの時代、自分が愛した相手と子供を作ることは難しかった。まず間違いなく自分が選んだ相手とは子供が作れない。遺伝子のマッチングが上手く行かない。その為家族が儲けた子供が異父子、異母子であることは珍しくなくむしろそちらの方が人口的に勝っていたのだ。 そんな風に子作り相手を探すのが難しい人が大半の世で、虎太郎はこの世界でも類を見ない相手を選ぶ必要がない遺伝子を持つ者でもあった。 第六世代の肉体強化系能力者、肉体強化系といわれる純粋なパワー型N.E.X.T.がこの世界に発現しなくなってもう二世代を数える。実に半世紀以上にも渡って自然には確認されなかったそれが、突然虎太郎という一人の日系人としてシュテルンビルトに出現したのだった。 肉体強化系能力者の素晴らしいところは、人であるのなら相手が誰でも子供が作れるということ。遺伝子の寛容性が非常に高いというか、融通が利くものなのである。後々に判明するのだが、N.E.X.T.遺伝子におけるこの排他性は世代が進むほどに強化されていくものらしく、このまま行くと人類の滅びは必然となってしまう。その対策として現在とられている方法が、旧世代のヒーロー故バーナビー・ブルックスJrの残したブルックス因子を出生前、あるいは出世以後に移植する事によって遺伝子マッチングの厳格性を緩和させるというものである。この事実は意外に知られておらず、バーナビー・ブルックスJrは一世紀以上前の偉大なN.E.X.T.の始祖または英雄と祭り上げられているだけで、真実の功績についてはいまだ正当に評価されているとは言いがたかった。 そしてここに今一人、同じように遺伝子の寛容性が非常に高い、旧世代の遺伝子持ちであるバーナビー・ブルックスWが居る。 鏑木虎太郎とバーナビー・ブルックスWは奇しくも同じ問題で同じアカデミー(訓練校)に入り、同じ教室で学びそして互いに恋をした。 同性であっても恋は許されるもの、いや奨励されるものとして彼らは皆に祝福され結婚することが極普通のこの時代。 けれど彼らがそんな時代において他者と唯一つ違った事は、二人とも肉体強化系能力者、――誰とでも子供が作れるという選ばれた希少存在だったということ。 それ故に二人の前にはそれぞれ別々に求婚者が鈴なりになることになってしまい、彼らの恋はいろんな意味で前途多難の様相を呈していくことになる。 [mokuji] [しおりを挟む] |