琥珀を捕む夢(1) カウンターリクエスト作品 NC1972.朝起きて白い箱の中 白い壁と天井に私はほっとした。 良かった、今日一日私は生き延びた。 けれど。 友恵はふうっと息を吐き出してベッドに力なく横たわり胸元で手を組み合わせて想うのだ。 もうじき私は死ぬ。 私は死ぬ。 この戦いには長く持ち堪えられず、私は必ずそれも近い内に負けるだろう。 美しい琥珀の瞳をした私の大切な愛はとてもしなやかで強い人ではあるのだけれど、ここのところ縋るような目で私を見るようになった。 それは逝かないでくれ一人俺を遺さないでくれという叫びであって、私自身、身切れる程彼の傍を離れたくなくて。 そして楓、私の娘。 まだ幼くて死というものがどれ程残酷で無慈悲で、そして潔いほど誰に対しても公平なものであるのかを理解できない。 私はこんな柔らかで小さな愛しいものをも置いて逝かなければならないのか。 置いていく者が辛いのか、それとも置いていかれる者の方が辛いのか私には判らない。 でも一つだけ判る。 置いていかれても置いていっても、別離の痛みがあることには代わりがないと。 古今東西こうして理不尽な別れをしなければならなかった者は、私だけではなく有史以前から沢山居たのだろう。 ありふれた日常の一こまに過ぎないと判っているのに、どうしてそれが私でなければならなかったのか――、実はそう考えなかった日は一度たりともない。 楓を抱きしめるたびに、虎徹君が私に触れるたびに。 何故、この愛しい者を置き去りにしてこの世から消え去らなければならないのが、私であったのかと? でも、人の死には本来何も意味などないのだろう。 友恵は枕もとの時計を見た。 もし時が戻せるのなら。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |