Novel | ナノ

琥珀を捕む夢(2)

カウンターリクエスト作品

TIGER&BUNNY
【琥珀を捕む夢】続・オリエンタル商店街
The Fantastic People of the Town Shopping District 2
CHARTREUSE.M
The work in the 2012 fiscal year.

NC1967.それは何時までも続くような

「虎徹くーん! このダンボールはこっちでいい?」
 友恵が虎徹を呼ぶ。
おう!とロフトでごそごそやっていた虎徹が応えた。
「なんだか判らないけど、いいぞ!」
「なんだか判らないのにOK出さないでよ!」
 そういうとそうだなと言って虎徹が顔を出した。
「それ何?」
「ほらあ、判んないのにいい加減な指示出さないの」
 二人とも三角巾、エプロン姿。
虎徹と友恵は今日、シュテルンビルトのブロンズステージに引っ越してきた。
二人が結婚したのは先月の春。
トップマグの入社試験に受かって、ヒーローデビューする為の多くの業務と手続きと訓練をこなしながら二人はオリエンタルタウンとシュテルンビルトを行き来し、その合間を縫って結婚した。 高校時代に出会ってからずっと同じ夢を温めてきた二人の当然の帰結だった。 虎徹がシュテルンビルトの新しいヒーローとしてデビューするのは来週の事で、その前に二人はオリエンタルタウンの虎徹の実家からこっち、シュテルンビルトに居を移す事になったのだった。
 ブロンズステージにある中産階級労働者が多く住む割合小奇麗で交通の便のいいこの場所を、虎徹の上司であるベン・ジャクソンがどういう手を使ってか見つけて宛がってくれた。 それまで友恵の存在を虎徹は話した事が無かったのもありヒーローデビュー直前に結婚するという事を聞いて、ベンはちょっと目を見開いた。
「この職業がどういうものだか知ってんのか?」とさり気無く探りを入れてみると、虎徹ははいと元気良く返事をしながら、「俺のヒーロー名称考えてくれたの彼女なんです」と照れながらもはっきりと言った。
そうか、判っているのか。 そしてそれはとても重要な事だとベンは思ったが虎徹には言わず「じゃあ住居は子供が出来てもいい契約にしないとな」と言った。
シュテルンビルトの賃貸物件はブロンズ・シルバー共に単身赴任者用のものが多く、既婚者を断わるケースが少なくなかった。 そうでなくても二人で入居した場合子供が出来たら出て行く事を条件に貸し出す所も多く、充分な広さと利便性を兼ね備えかつ新婚のプライベートを保証し住居人が増える事を前提に貸し出してくれる所を見つけるのは結構骨の折れる仕事だったのだ。 虎徹は全く気づいていなかったが、その事に友恵は気がついて結婚式の二次会の時にさり気無くベンに礼を述べた。
 ベンはオリエンタルカントリーパークで行われた、虎徹と友恵のガーデンウェディングに快く参加してくれた。
素晴らしく美しいチューリップ、咲き誇る花々に囲まれての式だった。 悪戯な春風が友恵のベールとウェディングドレスを翻し、ホワイトロングタキシードを身につけた虎徹が羽のように柔らかく友恵を抱きしめる。 純白の衣装を身につけた二人は、日本人なのに西洋人形にように完璧に綺麗でなんだか現実感がないなとベンは笑って二人を祝福し、その場にいた虎徹と友恵の友人知人たちに、二人をシュテルンビルトに連れて行ってしまうことを詫びた。 勿論それは虎徹がヒーローになると言うことでもあったから、虎徹と友恵の住む地域にあるオリエンタル商店街所属者一同は歓声をもってベンの言葉を受け入れ二人を送り出したのだ。
 チューリップの花言葉は「永遠の愛情」。 虎徹がその言葉を知っていてここを選んだのかは判らなかったが、友恵はかつて夢に見たものそのままのその結婚式に感動した。
琥珀色に輝く稀有の瞳を持つ、唯一人の私のヒーロー虎徹君。 出会ってからずっと手を繋ぎ、未来を語り、夢見ていた事が全て叶っていく。 夢見た通りに願いが叶う。 怖い、幸せすぎて怖いなんてあるんだ。 そう、余りにも完璧すぎて眩暈がする。 そして今友恵の未来と全ての祝福が目の前にあった。
「ん?」
 虎徹がロフトから友恵を見下ろして笑う。
友恵はその笑顔に胸が一杯になりながら、ぷうっと頬を膨らませて拗ねてみせるのだ。
「もうーしっかりして下さい、ヒーロー」
「ははゴメンゴメン、下に置いといて、多分その箱は本だと思う」
「レジェンドの?」
 ぱあっと顔を輝かせて友恵が聞いてきたので、レジェンドだけじゃないけどと言った。
「DVD?」
「DVDもあるよ。 友恵のコレクションと合体させれば殆ど完璧なんじゃないかなあ」
「そういえば」
 友恵がふと思い出したように言った。
「商店街の方々から選別頂いたでしょ? あれレジェンドの引退記念DVDBOXだったよ」
 うっそ、スゲエそれ欲しかったんだと言いながら虎徹の顔は何処と無く悲しげだった。
レジェンドの引退は世間一般には全く最初知らされなかった。
ある日突然レジェンドはHERO TVに映らなくなり、体調不良や病気等の噂が広がったが真相は謎のまま・・・。 静かにレジェンドは本当の伝説となってしまったのだった。 虎徹は出来ればレジェンドと一緒に現場に立ちたかっただろう。 再会してあの時の少年は自分なのだと密かに名乗る事を目標にしていたのを友恵はそれとなく知っていた。 しかしレジェンドも長くヒーローをやり続け、虎徹が銀行強盗の現場から助けられたあの事件当時すでに30を超えていただろうと友恵は思う。 ヒーローの現場は過酷だ。 特殊レスキュー隊と同じようなものだと友恵は理解していた。 そのような肉体的にも精神的にも疲弊する現場に何時まで居られるのか。 現実はN.E.X.T.に対しても酷く厳しい、恐らく寄る年波には勝てず、何処かで引き際を考えなければならなかったのだろう。 そうしてレジェンドは伝説となる。 ただの一人の人間に立ち返るにはレジェンドは偉大すぎたのかも知れない。 そっと、こうして静かに消え去る事があのN.E.X.T.には似合うような気もしていた。
「よしとっとと片付けてDVD鑑賞会だ」
 虎徹が暗い顔をしたのは一瞬で、直ぐに何時もの子猫のような笑顔で友恵に言う。
友恵もええと頷いた。
「何食べたい? あーでもちゃんとキッチン片付けるのは今日は無理かも」
 見回してダンボールの箱の山に友恵はふーむと腰に手をあてる。
「寝室だけ整えよう。 キッチンは友恵にお任せ。 俺が触ると嫌だろ?」
「ふふん、判る?」
 判るよぅ、友恵ちゃん怖いからさと虎徹が言いながらロフトから顔をひっこめる。
「じゃ俺、上頑張るから下よろしく」
「ちょっとー結局上に持ってくダンボールどれなのよ!」
 友恵がロフトに向かって叫ぶと、俺にもわかんなーいと虎徹が答えてきた。



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