Novel | ナノ

S.O.S. H-01 type-K -PI(7)



 時は確実に歩を進め、それから更に4年が経った。
バーナビーは37歳になり、かつて虎徹がそうであった歳になった。
違っていたのは、バーナビーがここ10年間、不動のKOHであり続けたこと。
そして、Kが、虎徹の時間を止めたままの姿で、傍らに寄り添っていること。
 とても優しくなったと思う。
K自身も変わった。
今では、虎徹が傍にいるかと錯覚するほどだった。
何時からだったろうか。
 このKという無機質な存在に、魂を感じるようになったのは。
それは、ほんの僅かずつの変化であったが、バーナビーは錯覚ではないと思いたかった。
Kは時折、本当に情感の篭った瞳で自分を見つめている。
まるで人と見まごうような、とても優しい瞳で。
時には厳しく叱責もする。
ヒーロー活動中に少しでも無茶をしようものなら、情け容赦なく自分を叱りに来るのだ。
かつて共にあった虎徹のように。
 いつからこうだっただろうか、もう思い出せない。
胸に開いた穴を埋めることは出来なかったけれど、ただ、これだけはと思うものは残った。
 自分は独りではない。
虎徹の形見が、こうして虎徹のふりかも知れないけれど、自分を見守っていてくれている。
昔は虎徹を何時失うかと、心の置き所もなく常に焦燥感に溢れていたが、今はそれはない。
何故なら、Kは決して失われないのだから。
 Kが居なくなることはない。 決してない。 どんなことがあっても、Kが自分を捨てることなどありえないのだ。
それはバーナビーの心の中、確かな約束となって心に平穏をもたらした。
 熱く焦がれるような、魂を求めるような想いはない。
虎徹と共に永久に失われてしまった。
 でも、これだけはと思ったものは、残ったのだ。
満足だ。 もういい、これだけでいい。
バーナビーはそう思った。





 その異常に気づいたのは、勿論Kが最初だった。
そして次に気づいたのは斉藤だった。
斉藤は、ある日Kだけを臨時メンテナンスと偽って呼び出すと、厳しく問いただした。
「バーナビーは俺に誰にも言うなと命令した」
「テンコマンドだ。 管理者外パスワードで君に命令する。 報告しなさい」※1
「斉藤、それは虎徹に対して良くない」
「そんなことを言っている場合か。 私はタイガーの二の舞をバーナビーにするつもりはないぞ。 さあ話してくれ」
 Kは製作者という創造主による管理外パスワードによって、命令を下されて、観念したように言った。
「バーナビーは減退している」
「・・・・・・」
 そうだと思ってはいたが、はっきりとそれを肯定されて、斉藤は絶句する。
それはハンドレットパワーを持つものの宿命なのか?とKに聞くも、彼は解らないと言った。
「タイガーのように、1分残して安定する、と思うか?」
「俺の計算では、その可能性はコンマパーセンテージ以下だ。 虎徹の記録よりも減退スピードが緩やかだが、その分長く減退し続けるだろう」
「なんでだ、どうしてこんな・・・」
 斉藤は頭を抱えて、机に蹲ってしまう。
Kはそんな斉藤を突っ立ったまま眺めていたが、やがて優しく言う。
「虎徹には、俺が居なかったが、バーナビーには俺が居る。 俺が守る。 俺はバーナビーの減退した能力を補佐できる」
「本当にそう思うのかい?」
 斉藤が聞いて、Kが答えた。
「バーナビーがヒーローで居たいと望むんだ」
 それはいっそ、切ないような表情で微笑む。
斉藤は顔を上げてKの横顔を見て、そしてアンドロイドにこんな表情が出来るのかと、泣きたくなった。
「俺は彼がそう望む限り、バーナビーをヒーローで在り続けさせるために努力を惜しまない」
Kはそう呟いた。



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