Novel | ナノ

S.O.S. H-01 type-K -PI(2)

TIGER&BUNNY
【S.O.S. H-01 type-K -Part Instrumental】Synchronized Organism System
CHARTREUSE.M
The work in the 2011 fiscal year.
ブラックタイガーストーリーズ 表



 虎徹が右手の親指が痺れる、と不思議なことを言い出したのは、ヒーローに復帰してから7ヶ月を過ぎたばかりの頃だった。
その後その痺れが取れずに、手首にまで広がってきたと虎徹がぼやいていたのが、それから僅か2週間後ぐらいだったと、バーナビーは記憶している。
元々あまり他人に自分の悩みを相談しない虎徹だったが、手の痺れにはかなり閉口したらしく、バーナビーに一頻りぼやいたあと、程なく一時休養願いを本社に提出した。
その妙な痺れはワイルドシュートのワイヤーを、重量のあるものに取り替えたからだろうかなどと、斉藤にも相談していたのをバーナビーは見聞きしている。
虎徹不在の間、バーナビーは一人でヒーローを続けていたが、ワイルドタイガーはすぐに復帰するものと信じて疑わなかった。
大体、オリエンタルタウンから一度電話をかけてきた虎徹が、「なんだか珍しい病気らしくて、年内復帰は難しいらしいんだ」と言った時に、多少の不安は感じていたのだ。
でも、虎徹の口調はとても明るくて、普段と変わったところは感じられなかったので、バーナビーは鷹揚に頷いて了承した。
「じゃあ、年末まで休養ってことでいいと思いますよ。 しっかり治してから復帰してくださいね」
「おう! 任せておけ。 ばっちり完治して戻るからな!」
 そう笑って虎徹は電話を切ったのだが、今思えばもうその時、虎徹の身体は殆ど動いていなかったのだろう。
アポロンメディアは知っていた。
ロイズも、ベンも、斉藤も、それを知っていたのだ。
知っていて、バーナビーにだけ教えなかった。
どうしてなのかは解らない。いや、バーナビーは解りたくないのかも知れなかった。
 なんにしても、虎徹はもうこの世にはいず、バーナビーは一人、シュテルンビルトに取り残されてしまったのだった。
置き去りにされた・・・。
そう、バーナビーは思った。
涙も出なかった。
人はあまりに悲しすぎると、涙を流せないものなんだなあと、バーナビーは思った。
 酷いクリスマスだ。
両親はイブに死に、虎徹の訃報はイブに届く。
 僕の人生は、聖夜になにか呪われてるのかも知れないなあと、自嘲気味に思った。
聖夜は平日だったので、普通にアポロンメディアのヒーロー事業部で雑務をこなした後、バーナビーは一人、家路につこうとタイムレコーダの前に立ったところで、斉藤に手招きされた。
「楓君が、君に託したいと言っていたものが、ここに来たよ」
 斉藤は頭にスピーカーを乗せた滑稽な姿で現れて、バーナビーにこっちへこいと促す。
バーナビーは抗う気もなく、とぼとぼとメカニックルームへ斉藤と向かった。
「自分で電車を乗り継いで来たらしい。 司法局の許可が下り次第、彼が君の新しいパートナーになるだろう。 どうか、大切にしてやってくれ」
「?」
 なんだろう、楓からのメールだと、それは「これ」と呼ばれるもので、なにか物体のようなものを想像していたのに、斉藤は「これ」と呼ばれるものが、自力で電車を乗り継いでここまで来たという。
これとはなにか。
 想像も出来ずに、バーナビーが首を傾げていると、斉藤はさっさとメカニックルームへ入り、なにやら声をかけたのだ。
これって、一体なんだ? モノじゃないのか?
訝しげにメカニックルームに足を踏み入れたバーナビーは、次の瞬間硬直し、悲鳴を飲み込む。
 そこには、虎徹が立っていた。
黒い髪、浅黒い肌、でも、その瞳は。
 ゆるゆると顔を上げて自分を凝視するそれ。
その虎徹の瞳は、人にあるまじき真紅の色彩を宿していた。
「楓君に僕が託したものはこれだ。 君も知ってるだろう? ロトワング博士が開発した、H−01。 それを回収して、ラボ(N.E.X.T.研究機関)と、アポロンメディアメカニック、そして 国際サイバネティックス研究機関(Xラボ)が更に改良を進めた。 そしてこれがその共同開発の成果で、H−01最終試作型、type-K(タイプK)という。 外見のモデルは君もよく知っているワイルドタイガーで、さらに言うと、タイガーが、このタイプKの初代基礎教育担当者だった。 亡くなった後は、鏑木一家、楓君が継続して行っていたようだが、もう辛いと言ってね・・・。 なので、正式に君に譲渡するという旨の誓約書が送られてきた。 バーナビー、どうする? 君はこれを受け取るかい?」
「これはなんですか、なんなんですか!」
「見ての通り、タイガーをモデルにしたアンドロイドだよ」
「どうして・・・!!」
 バーナビーは絶叫した。
「どうしてこんな、残酷なものを!」
「・・・・・・」
 斉藤は黙って目を伏せる。
バーナビーは、悲鳴と一緒に涙を流した。
「酷い、酷すぎる。 これを僕に?! こんな偽物を僕に所有しろって?! 虎徹さんは死んだのに! もう何処にも居ないのに! こんなものを僕に!」
「バーナビー・・・」
 斉藤は顔を上げ、それからぽつりと言った。
「受け取らないというのなら、彼はラボに送り返すことになってしまう。 サイバネティックス研究機関では、このtype-Kは喉から手が出る程欲しいものなんだ。 何しろコレ一体しかない特注品でね・・・、替えが効くような代物ではないんだよ。 一応このKを特徴付けることになった最大のシステム開発者は私なので、私が無理を言って楓君を管理者として登録し、外界に連れ出したんだ。 そして彼女は君に所有権を譲渡するという。 君が管理者を降りるというのなら、KはXラボの管理下に置かれることになり、二度と人の世には出てくることは出来なくなる。 それでもいいのかい?」
「なんですかそれ、脅迫ですか?」
「そうじゃない。 私はtype-KをXラボに戻したくないんだ。 バーナビー、頼むから受け取ってくれ。 そしてtype-Kの新たな管理者になって欲しい」
 斉藤がそう真摯に訴え、その時、H−01type-Kが動いた。
バーナビーの前に自ら進み出ると、type-Kはぎこちなく微笑むのだ。
「お前が、バーナビー・ブルックスJrか」
「・・・・・・!」
 殆ど虎徹と変わらないトーンの声。
偽物なのに、虎徹と変わらない微笑。
虎徹よりも少し浅黒い肌、モノトーンの服装。
そして、意外にも優しく自分を見つめる、真紅の瞳。
「バーナビー・ブルックスJr。 俺からもお願いする。 どうか俺の新たな管理者となって欲しい。 これは俺の現在の管理者である楓と、その前の管理者であった虎徹が望んでいたことだ」
「虎徹さんが、・・・望んで?」
「そうだ」
 赤い瞳が頷く。
「最初の管理者の最後の願いは、バーナビー・ブルックスJrを独りにしないこと、だ。 俺にはそれを遂行する義務がある。 ただし、それもお前が俺の管理者にならなければ果たされない。 どうする、バーナビー・ブルックスJr」
「虎徹さんが・・・」
 バーナビーは両手を硬く握り締めた。
「鏑木・T・虎徹がそれを望んだと? それは本当なのか?」
「本当? 俺はアンドロイドだ。 一度登録された命令は、外部からのデリート指示がない限り保存されている」
「本当なんだな? 誓えるか」
「誓う。 誓うとはなんだ」
「その命令は確かに虎徹さんがお前に命令したことなんだな? それを証明できるか?」
「証明」
 赤い瞳が、瞬いたと思った。
その瞬間、バーナビーはtype-Kに引き寄せられ、唇を奪われていた。
「―――――――!」
 斉藤がええっといった顔をした。
バーナビーも、目を見開き、すぐにそれを振り払う。
それから凄い勢いで、type-Kの頬を平手打ちした。
「な、何をするんだ!」
「Happy Birthday、バニーちゃん」
 虎徹と同じ顔をしたアンドロイドが無表情に口を拭いながら、そう言う。
バーナビーは硬直した。
「酷い冗談だと思ったろう、バニーちゃん。 手より先に足が出たんじゃないか? ―――――悪いな、俺がプレゼントだと、虎徹は言えばいいと言った」
「な、ななな・・・」
 斉藤が小さくため息を吐く。
バーナビーは真っ赤になって、Kを見つめて、それからそっぽをむいて言うのだ。
「お前、虎徹さんにはなんと呼ばれていた?」
「H−01 type-K ・・・・・・ K(ケイ)だ」
「解った。 お前のことはこれからKと認識する。 虎徹さんじゃない、お前はKだ。 でなければブラックタイガー」
「イエスマスター、管理者登録を更新します」
「・・・・・・K(ケイ)」
 バーナビーは小さく口の中で呟いた。


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