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最強!オリエンタル商店街(6)



NC1966.2.19

 二人は再び大学の帰り、虎徹への自宅への道のりをとぼとぼと連れ立って歩いていた。
ライセンス試験まであと1週間。ついでにトップマグ入社試験まであと1週間と1日である。
友恵もやつれていたが、ここ1週間で虎徹はげっそりとしてしまった。
友恵と母である安寿に何度も、「あの夢って何?」と聞いてみたが、はぐらかされて結局解らない。
しかし、壮絶な悪夢に虎徹はもう気力も体力も限界だと感じていた。
 友恵に懇願されてから、虎徹は何度も夢に出てくる似非レジェンドを受け入れようとしていたが、想像以上にきつかった。
何故かヒーローライセンス取得の為の知識を、虎徹に無理矢理「植えつけよう」としているようなのだが、イメージが厳しすぎる。
 逃げるのをやめて振り返った初日では、案の定教科書を文字通り食べさせられた。
無理無理、食べるものじゃないし!と泣いて喚いて嫌がると、何処からかロープが出てきてぐるぐる巻きにされて口の中に注がれた。
目が覚めた後、思い切り洗面所にダッシュして、出もしない教科書を口から吐き出そうと、本気で嘔吐いた。
 次の日は、出来るわけ無いだろうと思いつつ、交渉してみた。
気味が悪い覚えさせ方はしないで欲しいと懇願すると、レジェンドの姿をしたそのおじさんは、にやりと笑ってそこに正座するよう促してくる。
 素直に正座した瞬間、上から物凄い勢いで座布団よりでかい参考書が降ってきてプレスされた。
ありえない、マジで死ぬと喚いてもがくと、寝汗をかいて飛び起きていた。 どうなっているんだ。
 次の日になると、更に夢は酷い事になっていた。
お前の内部に注ぐには時間が足りない、視覚的に転写するというなんだか良く解らないけれど、非常に嫌な予感のすることを説明されて、逃げようとしたら下半身を地面に埋められてしまう。嫌だ嫌だともがいても何故か目覚めることが出来ず、ただひたすら抵抗しているところに、巨大な注射器のようなものが現れて、眼球にぶすりとつきたてられた。
これで悲鳴を上げない方がどうかしている。
 案の定、虎徹は現実の方でも絶叫していたらしく、血相を変えた村正に叩き起こされた。
もし、あの時起こしてもらえなかったら、俺はどうなっていたのだろうと、今でも身体が震える。
「友恵、俺もう駄目かも知れない」
 ウッ、と声を詰らせて涙目になっている虎徹を見て、友恵も泣きそうになった。
まさかよもや、そんな酷い事になっているとは思わなかったのだ。
 虎徹が可哀想すぎる。 本さん、もうちょっと手加減してあげてくださいと思いつつ、どれだけ虎徹が物覚え悪いのかというところにも悲しくて泣けそうになった。
「虎徹君、もうちょっとだよ、頑張ろう」
 友恵も涙目になって、歩きながら虎徹の背中を摩る。
虎徹は身体を前かがみにして丸めており、それがまた可愛いような可哀想なようで友恵は抱きしめたくなった。
 二人は、虎徹の自宅へ向かう途中にある、オリエンタル商店街へと歩を進めており、商店街の一番ゲート側にある、文房具屋へと差し掛かかる。
奥さんであるサキさんが、店頭に陳列されている商品を整えており、上品な笑顔で二人に挨拶した。
「あら虎徹君と友恵ちゃん、お久しぶり」
「お久しぶりです」
 友恵がそう返答し、虎徹が横から曖昧に会釈した。
「なにか具合でも悪いの?」
 心配そうに聞いてくるサキに、友恵が大丈夫です、と泣き笑いのような表情で言う。
サキはなんだか余計に心配になり、そう? と呟くも、それ以上は追求しなかった。
 友恵は虎徹を見る。
虎徹はまだうな垂れていて、意気消沈していた。 一回り以上小さくなったように思えるけれど、実際少し痩せたかも知れない。
なので、友恵はきゅっと虎徹の手を握り締めると、「私に出来ることがあればなんでもするよ」と言った。
 途端に、虎徹の顔に血色が戻る。
そして、虎徹は立ち止まって、じっと友恵を見つめてきた。
「な、なに?」
 な、なんだ?
丁度、魚屋の前で、密かに二人に注目していた安さんが、魚買う?と聞きそうになる。
ついでに通りかかった法さんも、息を詰めて眺めてしまった。
 魚屋の前で見詰め合う二人。
その場にいた商店街の面々も、買い物に訪れた馴染みの客一人一人が、二人に注目。 というか、目が離せない。
 なんだなんだ、どうしたんだ、と息を詰めて見守る中、ただ一人、自分たちが注目されているなんてことは露にも気づかない虎徹が息を大きく吸い込んだ。
「なんでもしてくれる?」
「う、うん?」と友恵。
 一度息を吐き出して、虎徹は再び息を吸い込む。
真剣な色を湛えた虎徹の瞳孔が、一瞬縮小した。
 金色の綺麗な瞳。
「マジで? お願いしてもいい?」
「え?」
 ・・・・・・続くいいよ、という言葉を、友恵は多分本能で飲み込んでしまっていた。
あ、これは多分、えーと、どうしよう!
「えー、待って待って、虎徹君・・・」
 ああ、まずい、答えを回避しないと・・・と友恵が思ったが遅かった。
いつの間にか、虎徹の目がランランと輝いていて、友恵は虎徹から手を放そうとしたが、逆にひっしと掴まれてしまい逃げられない。
虎徹は鼻息荒く、その場で絶叫した。
「シたい!」
イイヤアアアアッ!
案の定の内容に、友恵は瞬時に頭皮まで泡立つ。
羞恥に耳まで赤くなった。 ここここ、虎徹君、酷いよ、まず場所考えてよ!
 友恵はだらだらと汗を流しながら、真剣に自分を殆ど睨んでじりじりと迫り寄ってくる虎徹に後退った。
「え? え〜、でも約束でしょ? ヒーローライセンス試験に受かるまで、私とは何もしないって・・・・・・」
「現実的に、無理! ヤりたい。 もう無理。 お願い、俺を励ますと思って、ヤらして!」
 往来でというか商店街で絶叫されて、友恵の華麗なアッパーカットが虎徹の顔に決まった。
ぐふうっと言って、蹲る虎徹と、はあはあ息を切らせながら、顔を真っ赤にしている友恵。すっごく小さな声で、「何言ってんのよ虎徹君ッ、ここどこだと思ってんのよッ!」といった。
「言うんなら、公園とか、家の中とか、別に色々あるじゃない!」
「家の中ならいいんだな! 公園だったらOK!?」
 虎徹がまたでかい声でそういうので、友恵は今度は虎徹に肘鉄を突っ込んだ。
 げふうと言って、虎徹が身体を二つ折りにするが、友恵はもう、虎徹君なんか知らないッ!と逃げ出してしまう。
ああ、待って、友恵まって、見捨てないで。
虎徹は友恵を追いかけて、商店街を走り去った。



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