Novel | ナノ

最強!オリエンタル商店街(3)



 さて、話は10年以上前に遡る。
一時期ヒーローライセンスの試験を受けることになったわけだが、ヒーローアカデミー所属の学生と違って、フリーで試験を通るのは難関だと言われていた。
それでなくても狭き門である。 そもそもヒーローの資格を取ったとしても、スポンサーがつかなければ意味がない。
社員試験も受けなければならないし、こちらも当然実技のほかに学科試験がある。
実技はともかく、虎徹は学科が致命的に駄目だった。
呻きながら試験勉強に没頭する虎徹だったが、当時必死に友恵が教え込んだものの、明らかに虎徹が馬鹿だったもので、村正と安寿は絶望的だと内心思っていた。
しかし、ここに救世主が現れる。
 オリエンタルタウンから、初のヒーローが出現か、と期待された鏑木・T・虎徹。
意外にも、水面下ではワイルドタイガー(まだ仮名)をみな密かに応援していたのだ。
 その救世主とは、オリエンタル商店街。
その名だたるメンバー全員、オリエンタル商店街に特設されたN.E.X.T.自治会のことである。
早速、ドリームマスター本(モト)さんが名乗りを上げた。
「俺の能力は、睡眠学習を得意とします!」
 一同拍手。
「では、私が代わりに、ヒーローライセンス取得の為の学科を勉強したいと思います。 それを本さんにお渡しします。 機会があれば、虎徹君自身にお貸します」
 おお、と一同からうめき声が。
「サキさんが一番大変じゃないのか?」
「大変って言えば大変なんですけど、私の能力はその、所謂丸暗記、超記憶能力って言われているものの一種なので、そんなに大変ってわけでもないんです。 でもホントに丸暗記するだけなので・・・」
「それを結局教え込むのは俺ってことか」
 責任重大だなあと言った。
「あと、私が知識を貸し出してられるのは、3日ぐらいなので、やっぱり本さんが必死に教え込んでいかないと」
「距離が離れてても大丈夫なのかい?」
「それが、良く解らないんですよね・・・・・・。 遠距離で試した事がないので」
 やっぱり俺が頑張らなきゃならんのかと、ドリームマスター本が呟く。
「しかしなんだ、虎坊はあれだな、あの子、友恵ちゃんでも駄目なのかね」
「教え方は悪くないと思うんだけど、なにしろ、虎坊だしねえ・・・・・・」
「安寿さんとこも大変だね。 村正君の方がN.E.X.T.だったら良かったのに」
「そりゃあ、言ったらしめえよ」
 魚屋の安さんが、腕組みをしながら言った。
「あれでいて、虎坊は一本気だし、正義感も強い、何しろ可愛い! やつは可愛いぞ〜。 俺はいいヒーローになると思ってる」
「ああそうだな、レジェンド好きだし、レジェンド好きだし、レジェンド好きだし」
 その場にいた殆ど全員がふきだした。
「おかしいっつーか、可愛いよなあ」
「あれはねえ、安寿さんも大変よねえ。 でも良かったんじゃないの? レジェンド様様だよ!彼がいてくれなかったら、虎坊立ち直れなかったんじゃないかと思うのよ」
「子供は残酷だからねえ」
 京さんの言葉に、みんながしんみりとした。
「アタシもさあ、息子に、そんなに怖がるんじゃないの!って色々言い聞かせてたんだけども、虎坊のあれば、なんだっけ、隠しようがないものみたいなのよねえ。 なんかコントロールが相当大変らしいのよさ。 アタシらみたいに、隠せるっていうか目に見えない能力ならいいけども、虎坊のは目に見えるっつーか、肉体強化系だろ? 回りに被害甚大だからねえ」
「わしは、今でも一番迷惑なのは、安さんの能力だと思ってるんだが・・・・・」
 そう言い出したのは、大工の玄さん。
彼は顔を顰めた。
「シロアリをあんなん呼ばれた日には、商店街の家という家が全部崩れッちまうわさ。 勘弁してつかーさいよ、安さん」
 うえええと、女性陣が口を抑えた。
一番気持ち悪かったのは、何を隠そう、ムカデ事件とゴキブリ事件だ。
あの時はもう、誰もが安さんに殺意を抱いたものだ。
「そんなの思い出すない」
 安さんが慌てて言った。
「大体一番気持ち悪かったのは俺なんだぞ! それにもう俺はちゃんとコントロールできとる! その証拠にここ5年は全く呼んどらんじゃないか。 大体だな、海釣りに行くとき、うちら商店街グループだけが何時でも大漁なのは、俺が! 俺が居るからだろ! 役にたつこともある!」
 閑話休題。
 こほん、と本さんが咳払いをした。
「兎に角、虎坊は、このオリエンタルタウン、日系人区に生まれた、なんとかヒーローになれそうな唯一のN.E.X.T.なんだから応援してやりたいじゃないか。 肉体強化系N.E.X.T.ってのは、非常に希少なんだろ? ついでにアレは村上先生曰く、なんか強化系能力の中では最高峰だって言ってた。えーと?」
「Five minutes One hundred power」
「そうそれ!」
「村上先生がまだご健在だったらのう・・・」
 誰からともなく、ため息が漏れた。
村上和樹先生は、10年ほど前にシュテルンビルトから戻ってきたN.E.X.T.専門の小児科医で、オリエンタルタウンでN.E.X.T.に目覚める子供たちのカウンセリングも精力的に行ってくれていた。しかし、数年前に他界してしまい、今この地域にN.E.X.T.専門医は存在しない。
この商店街の面々も、村上医師には色々力になってもらっていたし、実際村上もこの自治会のメンバーだったのだ。
「村上先生が一番楽しみにしてたからなあ。 虎坊がヒーローになるの」
「ほんと。 残念だったわ」
「まあなんにしても、虎坊の能力が解ったってだけで大分違ったよなあ? あの後直ぐぐらいじゃないか? 虎坊がコントロールできるようになったの」
「なんかあの力は相当コントロール難しかったらしいぞ」
「肉体強化系はねえ、なんだか大変だって」
「サイコ系N.E.X.T.もシュテルンビルトでは相当迫害の対象だろ? 全く都会は駄目だよ」
「はいはい、私語はそこまで! 議題に戻りマース」
 書記をやってた、法(のり)さんがホワイトボードを水性マジックで叩きながら注目!と言った。
「雑談は後回しにして下さい。 本日の議題は、虎徹君のヒーローライセンス取得についてです。 本さんの能力って何処まで届くんです? 睡眠学習させるにしても、誰の夢の中にも入れるってわけじゃないんでしょう?」
 法さんは本屋の奥さんで、透視N.E.X.T.である。
大体3km四方まで、ありとあらゆるものを透視することが出来るらしいが、一度警察に依頼されて捜査に協力した時に、以来懲りたといって能力を使うことを躊躇うようになってしまった。 現在ではよっぽどの事情が無い限りは使いたくないと殆ど能力を封印してしまっている。
法さんはため息をついて、腕組みをした。
「時間がないんですよ、みなさん」
 本さんが手を上げた。
「物理的距離はあんまり関係ないんだ。 俺はどうやらそのサイコ系N.E.X.T.ってやつの分類らしくてよ、表層しかわかんねけど、約束事をするんだよ。 えーと、夢に入り込むのに?」
「条件はなんだい」
 玄さんが聞いた。
本さんはため息をつく。
これは俺の副業でもあるから、あんまり公言して欲しくねえんだけどさあと、ぼそぼそという。
「買ってもらうんだ。 夢を」
「え、それ物理的にマジで金で買うんかい?」
「そうだ。 なんでもいい、物々交換でもいいんだが、買ってもらうことになる。 本人自身が、夢を買ったと、自覚しないと入れないんだよな。 そこがネックだ」
「虎坊に気づかれずに、夢を買わせるって可能なのかい?」
 京さんが心配そうに言う。
「そこがなあ。 おい、誰か、何かいい手はないか」
 ううーんと商店街の連中が考え込んでしまった。
「それって、神仏の、その、おみくじみたいに手元に残らないものを、買うという解釈でいいんですか?」
 サキさんが聞いてくる。
「んー、強いて言えば占いみたいなもんだろうな。 実際その分類で私はシュテルンビルトでたまーに商売してる。 いい夢売りますみたいな」
「それって、又売りってのは可能なのかい?」
 京さんは、日本の昔話を思い出したらしく、確か北条政子が夢を妹から買っただのなんだのと言い出す。
本さんが、俺はその古事知らないけども、と前置きして言う。
「やったことないけど、心理的に近い相手なら可能じゃないかね。 血縁関係者がいいだろうとは思うけど」
「だったら、友恵ちゃんはどう? 血縁ではないけど、大学卒業したら結婚するんでしょ、あの二人」
 法さんがぽんと手を叩きながら言う。
「それも、ヒーローライセンス取れたらなんでしょ? 友恵ちゃんならほら、N.E.X.T.に対する偏見もないし、どうかしら。 案外いけそうな気がするんだけど」
「ああ、いいかもな」
 本さんも頷いた。
「よし、じゃあ友恵ちゃんに夢を買ってもらおう。 そして、友恵ちゃんがそれを虎坊に上手く売りつければいい。 なんだか友恵ちゃんに丸投げで悪い気がするけど」
 法さんが、ホワイトボードに、本さん→友恵ちゃん と大きく字を書いた。
そして、その横に、サキさん頑張れと書き込む。
「では、友恵さんにこの件を話して協力をお願いするところからのスタートでよろしいでしょうか。 で、問題の友恵さんに協力を持ちかける相手は、・・・・・・安寿さん、でよろしいでしょうか」
 それまで黙って隅っこで会議の行方を見守っていた、虎徹の母である安寿は、小さくため息をついた。
「・・・・・・なんだかねえ、うちの虎徹にそこまでして貰わなくてもって思うんだけどねえ」
「虎坊にはなんとしてもヒーローになってもらいてえんだよ。 わしらにとってもでっけえドリームなんだ」
 玄さんがそう胸を叩いていい、安さんがうんうんと腕組みをしながら頷く。
サキさんは手を組み合わせてじっと安寿を見ているし、本さんが、やるだけやらせてくれよと哀願する。
「解った。 明日友恵ちゃんには話してみるよ。 あの子も毎日虎徹に付き合ってて、いい加減あの馬鹿さ加減に疲れて来てるだろうし。 案外すんなり喜ぶかも知れないわ」
 その日家に帰った安寿は、早速電話をして友恵にその事を話したが、驚いた顔をしたものの、本から夢を買うことをあっさり了承した。
 やはり、虎徹の物覚えの悪さに辟易していたのだろう。
安寿は我が息子のことながら、相当情けなく思った。



[ 43/282 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
【Novel List TOP】
Site Top
×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -