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タイガーピープル(2)




「また出たらしいのよ、ABCが」
 久しぶりに全開になっているヒーロー同士の回線で、暇を持て余しているらしいブルーローズが、先週トレーニングルームで話していた事を、再び話していた。
「ここのところ、一週間、毎日目撃情報があるでござるよ」
 折紙サイクロンがそう応える。
「でもさ、目撃情報って、全部ウエストサイドだよね。 西側になにかあるのかな!」
ドラゴンキッドがそう返答して、その後、「それにしても、寒いよう」と弱音を吐いた。
今日も極寒。 ありえないぐらい寒い。
そして夜のウエストサイド湾岸部は、海の風が吹きっ晒しで、ドラゴンキッドのヒーロースーツでは相当寒いだろうと思われた。
ファイヤーエンブレムは自分の能力で、必死に身体を温めているらしい。
ブルーローズは元々アイスマスターであるので、寒さにはとんでもない耐性があるらしく、この極寒の中、平気な顔をしてあの露出の高いヒーロースーツで待機していた。
あれは見てるほうが寒いんだよ、と虎徹が愚痴る。同じく、と隣に待機しているバーナビーが頷いた。
男子組のヒーロースーツは全身装着型で、特にバーナビーと虎徹の装備はボディーアーマータイプな為、ヒーターを内臓していて非常に温かい。
防寒性には非常に優れているものなので、こういった極寒での活動には非常に具合がいいものだった。
逆に熱は多少篭ってしまう為、夏は難儀するのだが。
「シュテルンビルトは冬がこう厳しい土地柄だからな」
「今年はそれにしても、寒さが厳しい気がしますね」
「そうだなー、年々こう寒さが厳しくなるような・・・」
「ボンジュール、ヒーロー」
 ヘルメットを通じて、アニエスが口を開いた。
「近頃シュテルンビルトの湾岸部では、毎週麻薬の取引が行われてるらしいの。 Gメンが何度も捕獲を試みようとしたのだけれど、どうやらネクストが一人いるらしくて、いつも逃げ切られている。 そして今日、今度はこのウエストサイド湾岸部で、また取引があるとの情報が入ったわ。 みんなもう少し待機。 警察からの情報が来るので、包囲して一気にゴー。いいわね」
「了解、アニエス」
 虎徹が言う。バーナビーも「了解しました、アニエスさん」と返答し、再び二人で待機に戻った。
待機位置に戻ると、またブルーローズはモギィーについて話している。
相当ご執心というか、興味があるらしい。
「虎徹さん」
 バーナビーがふと言う。
「その、モギィー、今回の事件と関係あるんですかね?」
「関係ないんじゃないか?」
 虎徹がしれっと言う。
「だって、この取引って、いつもはイースト湾岸部だったんだろ? 今回初めてウエストだっていうじゃないか。 でも、このモギィーとかいうのは、目撃されるようになってからずっとウエストサイドにしか出なかったんだろ。 てことは別のネクストじゃねえの」
「そうか、そうですよね・・・」
 バーナビーがそう言って、虎徹が肩を竦めた。
「それより、ファイヤーエンブレムとドラゴンキッドを、せめてコンテナ内待機にしてやらねえと、あいつら凍え死ぬんじゃね?」
虎徹が顎をしゃくる先に、変なくねくねポーズをしながら、暴れるように動き回るファイヤーエンブレムと、丸くなって蹲り始めている、ドラゴンキッドの姿があった。
「そ、そうですね・・・」
ちょっと進言しようかなとバーナビーが思った途端、アニエスの声が聞こえてきた。
「警察からデータが転送されてきたわ。 もう犯人は指定したコンテナ付近、そこの倉庫に来ている。 さあ、ヒーローたち一斉に、ゴー!」









 犯人たちは当然複数で、少し問題があるとすれば、ネクストが一人ではなかったということだろう。
一人はパワー系ネクスト、そしてもう一人は電撃系ネクスト。
なんと表現していいか、ドラゴンキッドのような自然支配系能力者ではなく、その男は操作系に分類される、電気でも電圧を操るタイプのネクストだった。
パワー系ネクストが暴れまわり、それを相手に立ち向かったのが、同じパワー系ネクストのタイガー&バーナビー。
電圧を操るネクストを追いかけて、追い詰めたのは自然支配系ネクストである、スカイハイ、ブルーローズの面々で、ファイヤーエンブレムとドラゴンキッドは案の定凍えて使い物にならなかった。
 パワー系ネクストは、湾岸部に設置されている巨大なクレーンを次々に横倒しにした。
更にはそれを武器として、投げつけてくる。虎徹とバーナビーはそれを受け止めるべく、能力を同時に発動、幾つかのクレーンを受け止めて、定位置に戻していく。
そしてそれは、虎徹が犯人に飛びつき、バーナビーがクレーンを余裕で受け止めようとした時に起こった。
電圧を操るネクストの力が発動し、彼を中心に、半径一キロメートル以内のメカの電圧が、全部いきなりゼロになったのだ。
その瞬間、ヒーローたちのボディーアーマーの電源が落ちた。 PDAが落ち、ヒーローテレビが沈黙。 ウエストサイド湾岸部の一部の電源が全て例外なく落ちて、あたりは真っ暗になった。
ヒーローたちはスーツの中で、小さなパニックを起こす。 突然モニターが沈黙し、ヘルメットの中が真っ暗になれば、驚くなというほうが無理というものだ。
まさにバーナビーはクレーンを受け止めようとしていた。
いきなり視界がゼロになるとは、幾らバーナビーでも予測できるわけがない。
だから、視界を失って安定を欠いたバーナビーは吹っ飛ばされ、物凄い勢いで遠くに投げ出されてしまったのだ。
近くにいた相棒である虎徹の方も視界がいきなりゼロ。 慌ててフェイスガードを上げたのだが、バーナビーの姿は何処にも視認できなくなっていた。
 犯人を確保しながら、虎徹は叫んだ。
「バニー? おい、バニー大丈夫か、何処に行った?」
 しかし、無常にも雪と風が吹き荒ぶ。
虎徹は声を張り上げ、あたりを探し回ったが、ついにバーナビーからの返答は無かった。








「犯人確保〜」
ブルーローズが、イエイ!とポーズを決めたけれど、誰も反応しなかった。
コンテナの中での乱闘だったので、暗いのはそのせいだとばかり思っていたが、外にいっても全ての電気が消えてしまっていた。
ヒーローテレビも沈黙、サーチライトも消えている。
しんとした、シュテルンビルトのウエストサイド湾岸部。
ここ一帯だけ、電気が落ちちゃったんだわとブルーローズは思った。
「あんたのせいなの?」
 床に転がっている倒したばかりのネクストに聞いたが、彼は気を失っていた。
でも十中八九そうなんだろうなとブルーローズは察して、スカイハイと折紙サイクロンを促したが、二人はあわてふためきながら、ヘルメットを外そうとしているところだった。
「ちょ、あんたたちなにしてんのよ」
「暗い、そして暗い! 寒い、そして寒いんだ!」
「ヒーロースーツの電源全部落ちましたよ! なんなんですか、このネクストの能力」
「電源落とす能力?」
 ブルーローズが首を傾げた。
「ううっ、トランスポーターに帰ろう、みんなそして温まるんだ。これでは死んでしまう」
「そ、そうですね、うう、寒いっ」
 二人ともすでに歯の根があっておらず、ブルーローズはしょうがないわねえと肩を竦めて、PDAで連絡を取ろうとしたが、これまた電源が落ちていて使えなかった。
「地味に迷惑な能力ね」
「そ、その内回復するだろう。 とにかく風雪を防げるところに行くべきだ」
 スカイハイがそういいながら、歩いて自分のトランスポーターへ向かう。
どうしてなのかなと疑問に思っていると、ジェットパックの電源も切れているんだと、スカイハイが説明してくれた。
「風はともかく雪がここまで降ってると、上空で姿勢制御が出来なくなってしまう。 なるべく危険な事はやらないに越した事がないからね」
 そんな事を話していると、向こうから、フェイスガードを上げた虎徹が、必死の形相でこちらに向かってくるのが見えた。
片手に、犯人を引きずっている。
「どうしたんだ、ワイルド君」
「バーナビーが見つからない。 何処かに飛ばされちまったらしい」
「なんだって?」
「PDAは使えないし、無線も駄目だ。 局も応答しないし、当たり前だがGPSも使えない。 まずいぞ、意識を失ってたりしたら、この寒さだ。 ヒーターなしじゃ一時間もしないうちに、バニーが凍死しちまう」
 頼む、一緒に探してくれ!
虎徹の声が、暗闇に舞い散る雪の中に吸い込まれていった。




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