桜歌 Celebrate Kirsche15(2) 第二十一分署にバーナビーと虎徹が召喚されたのは、ワイルドタイガー生還の報が流れて僅か五日後、シュテルンビルトが興奮冷めやらぬ時期だった。アレックスの身柄はV州司法局預かりとなり、管轄はV州警察に移行していたのでそのことではない。第十七分署に突っ込んだ例の暴走車両事件の方の件でだった。 暴走車両に乗っていた男は二人、どちらも第十七分署に突っ込んだ後警官に包囲され直ぐに確保されていた。 一人はテレパスで首謀者、もう一人はその協力者でシールドバリア系と呼ばれる自分の周りにラップをくるむように障壁を形成できるタイプのNEXTだった。暴走車両が他のNEXT――スカイハイやブルーローズの影響を受けなかったのはこの男の張ったシールドのせいだと直ぐに判明した。 二人とも初老の男で、あの残酷なNEXT州法によって故郷を追われ、シュテルンビルトに隔離された世代、即ちかの悪法による直接的被害を被った当事者。 彼らの賛同者は今は少なくなってしまったがシュテルンビルトには何万といるという。 実際行動したのは数人だったが、それも当然だろうとバーナビーなぞは思う。当時まだ十代だった彼ら、特にNEXTにとって世界は途轍もなく残酷だっただろうから。まだシュテルンビルトに逃げられた者は幸運だったのだ。それでも当時意味も判らず両親から引き離され、あるいは遺棄され、行く当てもなくただシュテルンビルトに追い立てられるように集結せざるを得なかったNEXT達。ましてや第一世代は短命だった。彼らの怒りと悲しみその絶望だけは痛い程判る。取調室で淡々と自分の生い立ちと動機を語る初老の男を見てバーナビーはなんとも言い難い、深い憐憫の情を抱いた。 「ワイルドタイガーを殺そうなんて思っても居なかった、アレックスもだ。幾らフォートミューロが憎いとはいえ、アレックスは我々NEXTの同志でもある。彼を手に入れて現総帥マックスに要求を突きつけることができれば……。それが叶わないなら言葉は悪いが洗脳して次期フォートミューロの総帥候補である彼自身があの州法に疑問を持ってくれればと。我々は州法を撤廃したかっただけなんだ。あの怪物が残っている限り我々は死んでも死にきれなかった。勿論タイガーには悪いことをしたと思う。アレックスがいなければ解除できずに彼はその超個体化したままだろうし、それで悲しむ人間がいることだって判っていたさ。でも千載一遇のチャンスでもあったんだ。ワイルドタイガーはヒーローだろう? 俺たちNEXTの希望だろう。レジェンド世代の最後の生き残りでもある。少しだけ不自由させたかも知れないが彼には本当のヒーローになって貰おうと思ったんだ。今となっては大変身勝手な考え方だったと反省してる。それにワイルドタイガーが戻ってきたことで却って州法も撤廃される流れとなった。意図したこと、望んだ形とは違っていたが俺たちは満足だよ。タイガー&バーナビーに謝っておいてくれ。大変申し訳ないことをした」 警部がマジックミラー越しに佇んでその男の告白を聴いているバーナビーと虎徹に言う。 「ウロボロスとは関係ない。彼ら賛同者の身元も全部判明した。彼らはV州出身者だったよ。かつてシュテルンビルトに強制的に移住措置を取られた十代から二十代のNEXTたち、その八割が第一世代と呼ばれる初めてこの世に生まれたNEXTだった。力が強くコントロールが難しい上に能力が寿命を食った時代――NEXTが極端に短命だった頃の世代だそうだ。今でも生き残っている彼らは第一世代後半から第二世代前半に分類される。ワイルドタイガー、君は第二世代後半だったかな?」 「はあまあ、そう言われてますね……。能力が寿命を食うと言われてた――皆短命だったと。特に肉体強化系――パワータイプNEXTはその傾向が顕著で皆悲惨な死に方をしたと昔医者に聞いたことがあります」 虎徹はマジックミラーに右手をなら添えながら「自分は減退で済んだけれど……」と呟くように答えた。 バーナビーは「ウロボロスではない……。彼らが言っていたのは本当だったのか」と言い、それから警部に向き直って「彼らは――例の婦人警官とボランティアの青年は捕まりましたか?」と聞いた。 「むしろ彼女とあの青年がウロボロスだったのじゃないかと。後ウィンザムと呼ばれたもう一人男が居ました。テレポーターだと思うんですが」 「その件に関してだが――」 オットーが咳ばらいをし、バーナビーに言いにくそうに答えた。 「彼らはウィンザムという名の男は知らないというんだよ。実際調べてみたが、協力者や賛同者の中にもそのような名前の者はいなかったし先に見せたあのファイルにもいなかったんだろう? あれで全員なんだ。彼らの仲間ではない――としか思えない。更に言うなら、車で突っ込むという計画はアレックスを浚うためのもので、そちらは上手く行かなかった。我々のガードが堅かったのと、アレックスが実はあの時車外に飛び出してしまっていてね、結局それが幸いして彼を浚いにきた者たちはアレックスを確保できずに退くしかなかったんだ。そもそもワイルドタイガーを燃やそうだなんてそんな計画そのものが存在してない。彼らはどうして第十七分署が燃えてしまったのか、それを酷く気にしていたよ。思考をNEXTで攫ったが誰も嘘はついていない。これが真実だ」 「つまり?」 バーナビーが眉を潜めて続きを促す。 警部は一つ溜息をついた。 「ウィンザムというNEXT、テレポーターはあの暴走車に乗っていなかった。そして問題の婦人警官だが第十七分署に該当の婦人警官はいないとの回答だ。ボランティアの青年に関しては偽名だったと思われる。口座もなくなっていた。いや最初から架空口座だったのか、サイモンという人間自体がシュテルンビルトには存在しないんだ。シュテルンビルト管理コンピューターNIKEの回答だからこれも間違いない。そして彼らはそのサイモンの存在を誰もが知らない、もしくは忘れさせられたのかは判らないが――兎に角彼らの方が利用された、もしくは君が言うところのウロボロスというのが本当にあるとしたなら彼らの方こそがそれであったのではないかと。これは由々しき問題だ。警察内部どころかこのシュテルンビルト全体にもウロボロスが蔓延っている。そしてその事実に誰も気づいていない。なんらかの作用、最もNEXTによる能力なのかはわからないが、マーベリックの例もある。記憶を改竄する、それも一部ではなくそれこそ全体を、シュテルンビルトに居る人間の思考を何千万の単位で操作してしまうそんな途轍もない能力者が存在するのかも知れない。――」 「バニィ」 険しい顔をして黙り込むバーナビーに労わるように声をかけた。 「ウロボロスは終わらない――クリームもマーベリックもそう言ってた。僕にヒーローになるように示唆してくれた人も警察官だったけれどウロボロスのヒントを与えてくれたその翌週にはいなくなっていた。今思えば消されたんだ、あんなにも簡単に。何もかも終わってなんかない。僕は一体どうすれば――」 「俺がいるじゃないか」 「たまたま帰ってきてくれたけど、貴方消されかけたんですよ?! こんなのもう耐えられない。両親だけでも充分だ。それで貴方迄失ってしまったら僕は――」 「馬鹿野郎、そんなことで不安になるんじゃねえよ。不安になっても仕方がないじゃないか、そんなんで潰れちまったらそれこそ本末転倒だろう。大丈夫だ、俺がいる。俺は早々簡単にくたばらねえよヒーローだからな! ウロボロスについては追々考えよう。それに今回の件俺当事者だけどほら花びらだかになっててそこらへんもう記憶がごっそり抜けてるからわかんねえんだけどさ、――ウロボロスって組織だかなんだかについては少し考えを変えた処があるんだ。恐らくNEXTの組織、ジェイクが言ってたように俺たちは選ばれた存在だとそんな風に言ってたけど、今ここにいるおっさん――暴走車で第十七分署に突っ込んできたあそこらへんの賛同者と根っこは一緒なんじゃないかって思ったんだよ。NEXTだってことで虐げられて酷い目にあってきた最初の世代からの何かじゃないかと。今回も結果として例の州法を撤廃することに成功した。やり方がジェイクみたいに強引だったり極端だったりなんかマーベリックみたいにひねくれてたりすることも多いけど、ウロボロスにも色々いるんじゃないかと。だとすると今回の動きは俺の犠牲だけで目的を達することが出来たということでは結構なんつーか進化してるぞ。やり方がソフトになったというか賢くなったっつーか」 「なんなんですかそれ、なんなんですか。賢くなろうがスマートになろうがどうでもいいですよ。そんなんで虎徹さんを失うなんて耐えられない! どういうやり方だろうが虎徹さんに何かあったら絶対に許さないし許せないですよ!」 「おいおい。バニー落ち着けよ?」 突然激昂したバーナビーを虎徹が抱きしめてどうどうと背中を叩く。 その様子を苦笑しながら眺めていた警部はなんかもういいやと変に吹っ切れた。 ワイルドタイガーとバーナビーはもういつも一緒にいるといい、それでもういいと。 「レヴェリーさんにも証言してもらったけれど、彼女はウィンザムという男は見てないらしいね。婦人警官とサイモンについては君と同じことを言っていたが」 「ああ、彼女その時気を失ってたから……」 もう子ども扱いしないで下さいよ、頭の撫ぜ方が楓ちゃんと一緒でなんかムカつくと悪態を吐きつつバーナビーが虎徹の胸から顔をあげる。 警部は「ああもうそのなんだな」と咳払いし、「シュテルンビルトにはタイガー&バーナビーがいるんだ。私たちはそれほど心配してないよ。かつてのようにまた何かがあったとしても、君たちがなんとかしてくれる、そうだろう? 今回みたいに」 勿論シュテルンビルト市民一丸となって君たちと共に抗うつもりだ、ヒーロー? 「はい」 虎徹とバーナビーは互いに顔を見合わせた後、力強く頷いた。 今日彼女にも来て貰ってるんですよ。彼女曰くタイガーは自分の事を殆ど覚えてない筈だから必要ないっていうんですけどね、折角だから逢っていけばいいと。バーナビーが特に君に謝罪したいことがあるといっていたと留め置いてる。良かったら上に休憩所があるからどうかね、私は勿論遠慮するよ。 オットー警部がそう言って来たのでバーナビーは願ってもないと快諾した。 虎徹はなんとも複雑な表情をしていて、「何か気まずい事でも?」とバーナビーが聞くと「凄く恥ずかしい夢の中で凄く恥ずかしいことを沢山言った相手にリアルに逢うような気分」と答えた。 「なんか凄く、気恥しいというか――、ほとんど何も覚えてないのにな。なんでだろう?」 変に恥じらっている可愛い虎徹を促してバーナビーと虎徹はレヴェリー・マコーリーと対峙することになった。 マコーリー姓なのをこの時初めて知った。バーナビーも虎徹も彼女に関してはほとんど何も知らなかったのだ。 実際会ったレヴェリーに虎徹は全く心当たりがなく見覚えもなかった。 彼女は真っすぐに虎徹を見上げて「タイガー」と自分を呼んだけれど声すら覚えていなかった。 「花びらの貴方にちゃんと言われてたよ。自分はきっと覚えていられない、何も残せないのによくしてくれてありがとうって。だから判ってたから謝らないでね。帰ってきてくれてありがとう。私の為にもバーナビーの為にも」 そう言われて顔を赤くした。 そして同時に全く覚えていないけれど、彼女には本当に世話になったのだと思い知ったのだった。 「俺を――見つけてくれたのが君で良かった」 虎徹はそういうのが精いっぱいだった。 綺麗な薄青い瞳、ウェーブした柔らかそうな薄い金髪、見覚えがないのに懐かしい。 「ハグしても?」と聞くとレヴェリーは頷いて自分から抱きしめに来た。 恐る恐る触れた彼女の身体は背格好がほぼ同じ筈のブルーローズより更に華奢に感じられた。 精一杯背伸びして虎徹の首に腕を絡ませて唇を何故か耳に押し当ててくる。 なんだろうと思う間もなくその声が虎徹の脳に響き渡った。 『貴方が燃えてしまって亡くなったんじゃないかってお母さんから聞いた時にね、バーナビーには言わなきゃ伝えなきゃって思ってたけど、やめとくね』 タイガー、ファイト! 応援してるよ! 虎徹はびっくりして身体を離す。 見下ろしたレヴェリーはいたずらっ子のような顔をしてほくそ笑んでいた。 「……へ?」 意味が判らず虎徹は曖昧な笑み。 不思議そうな顔をしている虎徹にバーナビーはなんだろうとは思ったが、自分も姿勢を正してレヴェリーに深くお辞儀をした。 「貴女には本当に力になって貰ったのに、酷い事を言ってしまった。ごめんなさい。あんな――」 「いいんだよバーナビー、貴方が怒るのも当然だよ、私もタイガーをあの時全然助けられなかったって後悔してた。でも私はあそこにいて良かったって思ってるよ。だってバーナビー、あなたあそこに私がいなかったらタイガーの花びらと一緒に燃えちゃってそうだったもん。私が居たから――私を救出する為に逃げてくれたんだよね、一緒に。知ってたよ、タイガーの妖精――っていうか花びらからバーナビーの話いっぱい聞いてたんだけど、私はバーナビーのことヒーローだって信じてたから!」 そう言いつつレヴェリーは虎徹の方を振り返る。 なんで振り返られたのか判らずこれまた虎徹は愛想笑い。 その後レヴェリーは「ずっとバーナビーのファンだったんです!」と嬉しそうにバーナビーと話し始めてしまったので軽く肩を竦めた。 そして虎徹は「自分は何を頑張るんだろう?」と考え込む。 花びらだった自分と会話をしていたというけれど、俺なんか余計な事言ってない――よな? つか別に何の隠し事もしてないし、何もない――と思うんだけど、なんか凄く心配になって来た! 一方頬に手を当ててなんだか百面相をしているタイガーを横目でちらりと見、自分に気を使ってくれているのかヒーローとしてではなく年相応の青年の顔で話してくれているバーナビーにレヴェリーはかつての花びらの妖精との会話を思い出していた。 「ばにーはあれだなんていうかあれだなおれがいないとしにそうなかんじなんだよひとりにするとこわいつかなんかおれのためならじぶんのいろんなことほっといちゃうかんじがするっつかなもうちょっとおれのことをしんじてほしいんだけどさなんかおいたちがあれだからなんつったらいいのかないつかおれがいなくなるとおもってるとこあんだよなかえでとか……かえでっておれのむすめなんだけどななんかなかえでとじぶんくらべるとこがあってなそのくせかえでとおなじあつかいするとおこるしどうしろってんだってなそれがなあ」 タイガーさあ、もうちょっと要点かいつまんで話してよ。さっぱり判んないし楓ちゃんのことは何十回も聞いたから知ってるし。んで? 何がどうなのよ、バーナビーをひとりにしたらまずいって話? タイガーはどうなの? ずっと傍に居てあげたいんなら問題ないでしょ。今だってバディなんだし。 「あっそうだなごめんおれはなしがあんまりうまくなくてななんていうかいまからもういんたいするはなしばっかされてるんだよなさいきんだけどたしかにりょうりつできねえところあるよなひーろーかつどうとさあしゅてるんびるとじゃもんだいになりそうだしかえでにもおこられそうだしきもちわるいとかいわれたらどうしようとかでもさやっぱむりあるってわかってるけどいんたいいんたいいわれるとびみょうなきぶんになるわかってんだっておれもいんたいごじゃないといぎりすとかふらんすとかおらんだとかあれだこんちねんたるにいじゅうするのはむりだってことぐらいさあ」 ?? なんで移住する話になってんの。シュテルンビルトじゃ出来ないことって何? 結婚の話じゃなく? 「いやまあそれですけど」 はあ? なんで? シュテルンビルトでも同性婚は可能でしょ。N州では十年ぐらいにドメスティックパートナー法が成立したじゃないの。なんの規制に引っかかるのかわかんないけど幾つか種類あるんだよね? シュテルンビルトだけ違ってたっけ? あれ? 登録パートナーシップ法――シビルユニオン法だっけ? なんだっけ、でもさそれじゃダメなの? 「なんかそれせいげんあんだろ?やっぱたてまえじょうけっこんせいどにするとまずいとかなんとかでしゅてるんびるとでつかほんごくがさいようしてるそのしすてむはけっこんとはやっぱちがうしげんみつにいうとしかもどっちかがついじゅうするかたちだとおれのばあいさいこんつかかえでがいるからとうろくしにくいんだよせいぜんざいさんぶんよのはなしにもなるみたいだしひーろーにじゅうじしてるとどうしてもあれあれだしえとひとよりしぬかくりつたかいっつの?それがりょうほうとかぜんれいないとかめちゃくちゃけーべつのめでみられたしけっこんとおなじけんりをほしょうしてるぱーとなーしっぷほうをさいようしてるくににいくしかないってことに」 なんないよ。それさあ相談したの誰? 相談してるのは偉いけど、相談する相手間違ってない? 軽蔑の目で見られたとかそれ結婚以前の問題な気がする。まずはバーナビーに相談しなさいよ。なんで当事者すっ飛ばしてるの? タイガーさあ、ホントに貴方たち似た者同士ね。お似合い! ってそれはおいといて私が思うにバーナビーが望んでるのは完璧な結婚っていうか完璧なパートナー契約の話じゃないと思うな。もっと精神的なものよ。何か約束が欲しいの、好きな人と何にもないって結構不安よ。好きな人から貰ったものはゴミだって宝物になっちゃうんだから。いつだっけバーナビーが自分のタスキだか持ってるって言ってなかった? なんであんなごみ後生大事に取っといてるんだろうって謎だけど指摘するのもアレなんで観てみないふりしてるとかなんとか。タイガーにしてみたらごみかもしんないけど、バーナビーにとっては宝物なのよ。そういうのがわかんないところが凄くダメ。 「おお……そうかうんおれだめだなあじゃあどうすればいいとおもう?いまはべんさんにおねがいしてるんだおれになんかあったばあいかえでを……かぞくをおねがいするってあれなんだけどじつはさばにーにもそのなんだなかってなんだけどそのなわたすってかめいわくかもしんないけどべんさんがさおまえばーなびーにはなにものこさないつもりなのかっていうからそのとうろく?ていうかしんせいはしたんだよにけのほうにとうろくぱーとなーしっぷなんたらってやつのほうでさそのさめいわくだとおもうんだけどばにーに」 ベンさんって誰。まあいいわ、ベンさんが誰だか判んないけど正論よ。凄くその人の方が良く判ってると思う! 迷惑なんかじゃないよタイガーさあ自分から少し歩み寄っていいと思うよ。バーナビーは多分そんなの最初から承知して貴方の事が好きなんだと思うし。考えるのもやだけどむしろ貴方がヒーロー活動で殉職したとするじゃない? 何にも自分には望んでなくてその楓ちゃんだっけ? もベンさんとやらに託されたら余計凹むんじゃないかなあ。所詮バディなんて他人なんだって死んでから言われたようなもんだよ。タイガーはもっとバーナビーを信用してそのヒーロー活動以外でも! ここ重要よ! ヒーロー活動以外のプライベートで気安くしてもいいんじゃない? なんでそんなに一人で抱え込んでるのかわかんないけど頼っていいんだよ、タイガー。 「おまえあにきとおなじこというなそうかそれでいいのかなふたんになるとおもってたんだけど……べんさんにいわれたんでかってにじつはさいばんかんどのつうじてでんごんはあずけたんだおれになにかあったときのゆいごんみたいなあれだけどあとはばにーしだいだけどあれだなもうつかっちまいそうおれもとにもどれるのかなもしもどれなかったられうぇりーわるいんだけどつたえてやってそのときにはむこうになってるだろうけどそれがおれのしょうじきなきもちだったってむりかな」 まあ嫌だけど伝えてあげるよ、もしタイガーが戻れなかったら、だけどね。 兎に角戻ったら登録表記をちゃんと変更すること。凄く大変? 知らないよそんなの。なんとか頑張りなよ。愛があればできるでしょ? もううるさいよヒーローなら黙ってやりなよ。私だったら戻ったら直ぐに表記を正すし。でもタイガーは往生際悪そうだからそうだね、九月だっけその――切り替えの時期って? 丁度いいからそこで切り替えといて後はNIKEに任せれば? あ、いいこと思いついた。バーナビーの誕生日に期日指定にしてさ。ほらあれってNIKEからの自動更新通達で各自の市民IDに郵便で届くじゃない。ヒーローの登録ってどうなってんのか私は知らないけど、最近それやってる人多いよね。まあバーナビーが拒否しておしまいっていう可能性が無きにしも非ずだけど。 「お。おお……れうぇりーおまえこわいこというなあなんかじしんなくなってきた」 そんなことを回想しているレヴェリーにバーナビーは再び頭を下げて自分の胸ポケットに刺してあったしおりを渡した。 レヴェリーがそれをなんだろうと受け取ると、それはかつてタイガーの妖精が貼り付けてあったあのしおりだった。 「不思議、この花びらは消えて無くならなかったんだ」 「花びらの大半が燃えて無くなった時、虎徹さんの精神? か何かがここから抜け出て僕の傍に来てしまった。その時これはただの花びらになってしまったんだと思います。僕の勝手な解釈ですが……。そして代わりにあのセントラルパークの桜並木の花びらが彼の身体になった。これはただの器だから自由に取り換えられるって虎徹さん自身が元に戻った直後は言ってたんですけどね、この人物忘れが激しいから貴女の事も自分の発言も全く忘れちゃったんです。許してあげてください」 「物忘れが激しいってなんだよその言い方」 そう言いながら虎徹も目が笑っている。 それから虎徹とバーナビーは二人でしおりの裏にサインをした。 レヴェリーはこれは一生の宝物にしなきゃと思った。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |