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桜歌 Celebrate Kirsche5(2)



 一旦ロックバイソンと共にアポロンメディアへ向かう。
ワイルドタイガーの収集進行はより分け班のロックバイソンの担当ということに自然に落ち着いていた。
その為一度OBCのスタジオに寄る必要があったのだ。
二十一時のニュースに臨時枠で五分時間が取られており、ざっと説明する模様
バーナビーは現場の進行担当だが、OBCの取材が日中も当然入っているので今回は出演を省略。
アポロンメディアのヒーロー専用区画にクロノスフーズのトランスポーターを誘導して収納した後そこで別れた。
「すみません、後を宜しくお願いします」
「了解。後十七キロ分手伝ってくれって言ってくる。バーナビー、お前ちゃんと休めよ? お前が倒れたら洒落にならんからな、虎徹の為にも」
「判ってます」
 初日は怖くて混乱していて眠れなかった。二日目は疲れていたから自宅に帰った後気絶するように眠ってしまったけれど、悪夢に魘された。とても寝た気がしなかった。三日目は流石に眠剤のお世話になった。だけど今日はぐっすり眠れそうな気がする。
 会社で今日一日の作業報告をさらりと済ますと、バーナビーは直ぐに自宅に戻った。
ロイズもおばさんもバーナビーを早く返すよう取り計らってくれていたらしく、会社でやる業務は全て免除されていたのもありがたかった。
ベンは警察との仲介役を買って出てくれたので、虎徹を超個体化してしまった例の少年アレックスについての情報は全てベンからのメールでチェックしていた。それによると第二十一分署の拘置所に初日は居たようだが、フォートミューロ財閥が当然抗議、なんと千四百万シュテルンドルの保釈金を払い、現在シュテルンビルトのセカンドコテージ、アレックスの自宅に戻っているらしい。これが報道されていないのはアレックスが未成年なことが大きいようだ。裁判を始めるにしても現在彼の能力が行ったこと、その結果が出ていない。ワイルドタイガーが元に戻ることが出来たなら殺人容疑は取り下げられる、傷害罪としても微妙な線だ。なんらかの刑に処されるのは明らかなのだが、結局彼の罪がなんなのか現時点では誰にも推し量りようがない。
 なんの罪になるんだろう。勿論きちんと罰して欲しいが、情状酌量の余地は当然あると見なされるだろう。
NEXTというのは本当に難しい。誰もが目覚める可能性があって、その目覚めた能力如何では、誰にでも加害者になりうる可能性があるからだ。
だからこそ慎重にもなる。一つの判決が多くの人の人生を、誰か他の人の未来を奪ってしまいかねないことに繋がるからだ。
 シュテルンビルト最高司法を束ねるが一人、ユーリ・ペトロフの重圧は相当なものだろう。
そして今回もまたワイルドタイガー絡みなのかと内心うんざりしているに違いない。
虎徹さんってなんていうかもう巻き込まれ体質なんだよな。ヒーローであることが天職なのは間違いないけど本当にヒーローって職業があって良かった。
だけどもう毎回こんなだと僕の心臓がもたない。
 家に帰って二十一時のニュース録画を見る。
ロックバイソンがここからが勝負だよろしくな! と簡潔に今日の作業を述べた後にシュテルンビルト市民に向かって探索要請手順を熱心にアピールしていた。
画面の下を見つけた人は最寄りの司法局関連施設又は警察署に届けるようにというテロップが流れている。最後に表示されたのは、第十七分署と、アポロンメディアの問い合わせ用電話番号だった。
 アポロンメディアのナンバーがどうやら大規模災害時の臨時番号だと知って軽く吹き出す。
ついに災害認定されてますよ虎徹さん、と呟くと手にしていたストックバッグの花びらたちが少し動いたような気がした。
簡単に食事をして、シャワーを浴びる。すっきりした後リビングを消灯すると寝室に行った。
サイドテーブルは最近買ったもので、虎徹がブレスレッドを置くとこがないと騒いだから。
バーナビーの方はいつも指輪やネックレスを洗面所に置いていたしPDAは例え情事の最中であろうと外さない主義だったので、虎徹さんだって指輪とPDAは外さないんだからブレスレッドぐらい洗面所に置いとけばいいと言ったがそれは鼻息で却下された。虎徹曰く距離がありすぎるとのこと。
 しかし今日はこのサイドテーブルを買って良かったなあと思った。
ストックバッグを開けて慎重に中身をサイドテーブルにあける。
十枚の花弁はストックバッグにへばりついて中々出てこなかったけど、うまく飛ばされないようにテーブルの上に全部置くことが出来た。
 呼吸で飛びそうで少し怖かった。やっぱり声を聞いたらストックバッグにしまっておくべきだろう。
何を喋ってるのかな。それとも花びらでも寝るのかな。眠いって言ってたけどどうなんだろう。
そう思いながら発動する。
 花びらが青く輝き出して「あー、綺麗だなあ」と何度見ても感動する。
それから聴覚チャンネルを合わせるのだ。合わせるのに三十秒程無駄にした。
やがて。

「ばにー」
「ばにー」
「ばにーだ」
「ばにー」
「ばにー!」
「ばにー」
「ばにー」
「ばにー」
「ばニィ」
「バニー」
「はやくねろ」

 それぞれ何やら小さく小さく呟いている。最後の一枚だけが言ってることが違っていて笑ってしまった。
しかしこっちの状態が判っているのだろうかとも思う。
会話は無理だと思うけれど、対峙しているのが誰かぐらいは判別ついてるようだ。
というかもう、なんていうかもう!
 可愛すぎるんですよ貴方!
なんていうか全体が「わー」って感じでもうもうもう、兎に角悶絶するほど可愛い。
不覚にもバーナビーは可愛すぎてどうしていいのか判らなくなった。
取り合えずベッドに縋りつく。それでも足りなくてぐぬぬ、と両腕を握りしめた。
声も可愛い、言ってることが可愛い、妖精って感じ! 
虎徹さんは「日本でいう妖精っていうのは斎藤さんみたいなものだ」と言ってたけど、これあなたの方が妖精じゃないですか!
虎徹の説明がへたくそなせいで、バーナビーは日本の妖精っていうのはMONONOKE(コボルト)のようなものが一般的だと思い込んでいたが、そうじゃない、絶対違うと確信した。
 桜の花びらになっても可愛いってどういうことか。何になっても可愛いのかこの人は。
危うくテーブルごと抱き潰しそうになったので、深呼吸してから一枚一枚慎重にストックバッグに戻していった。
戻すときに

「あっなんですかもどされちゃうんですか」
「うごけねーよー」
「こしがいたい」
「むちゃしやがって」
「ゆっくりねろよむりすんな」
とそれぞれが声をかけていくのでやっぱり自分だって判ってるのだろうと笑みがこぼれた。

「ほら、僕が寝ている間に飛び散っちゃったら困りますから、虎徹さんも寝てくださいね」
と声をかけるとやはりそれには答えがない。だが一方通行でもバーナビーは嬉しかった。
今日はちゃんと眠れそうだ。

「ばにーおれはだいじょうぶだからなおまえがむりするほうがこわいよ」
「もっとそばにいきたい」
「かれーくいたいなー」
「んーんーんー」

 一枚は歌っているのに気づいて何の歌ですか? と聞いてからはたと気づいた。
もしかして声も周波数をあわせればこの花びらたちと意思の疎通ができるのでは、と。
自分が虎徹の声を聞き取れなかったように、今の虎徹に聞こえる音は物凄く限定的な範囲でないかと気づいたのだ。
しかし発声の周波数を合わせる方が難しいし、人間の喉にはその発音ができる機能がないのでは? 
だとしたらお手上げだけど、試してみる価値はある。
何の音声を変換しようかと悩んだが、多分明確な言葉を変換するのは難しいと気づきバーナビーは能力が切れる一瞬前にその音を変換してみた。
上手く行ったが判らなかったが、最後の一枚をストックバッグに戻すとき、それがこう囁いて行ったのを聞いて通じたと確信した。

「おやすみばにーおれもすきだよ」

 変換したのはいつものおやすみなさいのキス、リップ音だった。
我ながら気障だな、いつもの虎徹さんなら「早く寝ろ」ってそのまま背を向けるか何も言わずにスルーするだろうなと思いつつ、それぐらいしか伝えられそうな音がなかったというのもある。
しかしいつもの虎徹と違って花びらは素直に返答していった。
それがもう堪らなく愛しくてバーナビーはまたストックバッグを握り潰しそうになってしまった。
そこをぐっと我慢。
 やがてハンドレッドパワーが切れた。
もう花びらたちの声は聞き取れないがバーナビーは満足だった。
その日は久しぶりに夢も見ないでぐっすりと朝まで眠ることが出来た。




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