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SPLASH! 2 人魚のいる水族館 《北の星座》 (11)




 恋は終わるものだって俺は思っていた。

虎徹がそう呟いた時、ハンナマリには彼の見えない涙がはっきりと見えた。
水中では水に紛れて涙なんて見えない。涙を流しているという感覚もない。けれど、彼女にははっきりと判った。
 今、彼は泣いているんだと。

 偉そうな事言ってたけど、今更のように怖い、行きたくない――――。

虎徹の悲鳴のようなテレパシー。ハンナマリも姿形は違えど、虎徹と同じ幻獣としての能力を持っていた。彼女もまたエコロケーションを使えたから、虎徹が恐怖で身も心も竦みあがっていて逃げ出したいと願っているその本心を聞き取っていた。

 行きたくない、傍に居たい。あんなアイツを置いていけない。置いていきたくない――死にたくない。

バーナビーと話して戻ってきた虎徹にハンナマリは後悔した。貴方たち喧嘩した訳じゃないんでしょう? ちゃんと話してきなさいと促したけれど、ここまで虎徹が崩れてしまうとは思ってもみなかったから。私は自分がこうして同じように辛い目にあって、そして愛する人に遭うことが、そして愛する人の嘆く姿を見たくないと思う気持ちを誰よりもわかっていた筈なのに彼にはその酷い事をしてしまった・・・・・・。

 決着がつくと思ってた。終わるんだと思ってた。こんな終わりを想定してたわけじゃないけど、いつでも終わらせられるって思ってた。だけど間違いだった! 行きたくない、バニーを置いて行きたくないよ、ヒーローだって辞めたくない。シュテルンビルトから離れたくない、楓――家族に二度と会えないなんてやだ。やだよぅ。

 虎徹がそれを口に出した訳ではなかったが、判ってしまった。
実際イルカたちも反応した。イルカどころかザ・オーシャンシー・パシフィックに飼われている全ての生き物が――植物すらもが彼の嘆きに反応する。
その悲しみは痛いほどで、ハンナマリも痛烈なその嘆きに胸を押えた。
イルカたちが夜の囲いを越えて虎徹のいる最深部まで潜水してきた。
糸巻きエイがひらひらと体を波打たせてやってくる。さすがにラッコやオットセイ等は囲いから抜け出せなかったのかその悲しい鳴き声だけが響き、魚たちが虎徹の周りを取り囲む。
銀色の鱗がきらきらと夜間照明に照らされてめまいがする程美しい。
ハンナマリも沈みながら泣いている虎徹の横にその体を寄り添わせた。そっと抱きしめる。

――泣かないで・・・・・・。

 終わらない恋があるなんて。このまま行ったら俺はバニーに永遠に片思いだ。海の中で焦がれ死んじまう。神様、俺の恋心を抹殺してくれ。辛い、辛いんだ。
一分でもいいよ、役立たずでもいいよ、NEXTじゃなくなったってもういいよ。なんでもいいよ、どうか神様俺を今すぐ人間に戻してください。こんなのいやだ。

――タイガー・・・・・・。

 一言だって口に出せなかった悲鳴。
ハンナマリはそれをただ抱きしめながら自分もまた心で泣いた。
本当にどうすればいいのかしら、誰か私たちを救って――お願い。


 そうして一晩が過ぎて虎徹は再びその真実の願いを心の中に封印してしまうのだ。

昨晩はみっともないところを見せちまった。ごめんな、忘れてくれ。
――ううん。

 そうしてハンナマリは決意する。





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