Novel | ナノ

君のノスタルジア(9)

 中央メディカルセンターから完全回復後遺症もなしとお墨付きを頂いて、虎徹は解放された。
正気づいた後、一日念のため検査入院したのだ。退院時にはバーナビーが迎えに来てくれた。
「なんかすまん、えらい世話になったみたいで」
「いえ」
 ダブルチェイサーのサイドに乗り込むと虎徹は思い切り伸びをした。
「実際のところ、虎徹さんどのぐらい覚えてます?」
「普通に夢を見て、その夢を覚えてるって感じかな」
 目が覚めるまではそれが現実だと信じて疑わないのに目が覚めた瞬間、いきなりこれは夢だったって自覚するだろ、ああいう感じ。
「じゃあ全く、普通の夢と変わらない状態だったんですね」
「まあ、俺としてはずーっと普通に寝ながら夢を見てたって感じだよな。その間俺普通に生活してたんだろうけど、今となって振返ってみるとありゃ夢遊状態だな。うん、ホントにそういう感じ」
 まあでもさ、と虎徹は言う。
疾走するバイクの前方から押し寄せる風に目を細めながら、片手でハンチング帽を押えて。
 本当は夢だって判っていたんだ。でも幸せすぎてどっかで目覚めたくないって拒否してたんだなぁ。
早く目を覚まさなきゃ、みんな心配しているってちゃんと判ってたのに、お前らが全員優しいから最後まで見続けていたいって俺は甘えてたんだよ。
 ありがとな。
本当に幸せな夢だった。この幸せは本当にあったことなんだって、そしてお前がすげえ顔するからそうだな、今俺がやんなきゃいけないことは昔の夢を懐かしむことじゃなくてこうやって俺の夢を支えてくれている他の多くの人の為に、ここまでにしておこうって。
 夢の続きはお前たちと見るよ、まだ見てない夢をお前たちと見続けていくために。
「だから戻らなきゃって思ったんだ」
「虎徹さん」
「うん」
「おかえりなさい」
「うん」
 虎徹は頷きながらバーナビーの頭をゴリゴリと撫でた。



 
 平凡に日々は過ぎて行き、シュテルンビルトはいつも通り活気づいて急がしそうで。
ヒーローたちも忙しく、二軍から一軍へと復帰を果たしたタイガー&バーナビーがお茶の間で普通の事として余り話題にされなくなった頃。
リリー・オヴザヴァリーが国外へ出るというのを最後のニュースに、彼女はタレントを廃業して世間の目からは消え去った。
オリエンタルタウン発祥の日本人向けツアーは色々オプションも増え、シュテルンビルトでの挙式を目的に訪れる人のためのマリッジ用ツアーが殊の外人気を博した。
 その後実は一度だけバーナビーは恨み言を言いにリリーと面会した。リリーは最初にあった時より随分と大人びていてバーナビーの恨み節にころころと鈴のような笑い声で答え、半分は純粋な礼であり半分強烈な嫌味でもあったそれを受け取った。それは数枚しか印刷されなかった貴重な写真だった。
 一枚はオリエンタル商店街の集会所に、二枚は鏑木家とバーナビーのアルバムの中に。
そして最後の一枚は今、ロイズの机の上にひっそりと飾られている。





FIN

TIGER&BUNNY
【君のノスタルジア―Nostalgia―】
The Fantastic People of the Town Shopping District 3





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