君のノスタルジア(6) ※※シナリオ※※ ●バーナビー・ブルックスJr(友恵さん) ●ロックバイソン(アントニオ) ●ファイヤーエンブレム(三下) ●スカイハイ(小学校からNEXTが気持ち悪いと虎徹を苛めて苛めて苛め抜いてたNEXT嫌いの男。中学も高校も虎徹と一緒で最後は友恵さんにもちょっかいだして来てたので険悪になってたあいつ) ●折紙サイクロン(虎徹のクラスメイト) ●ブルーローズ(友恵さんと仲が良かったあの子。友恵さんの親友かも知れないけど、俺は名前を知らない) ●ドラゴンキッド(多分だけど、同じ虎徹のクラスメイトだった女子組の大人しい方) 「・・・・・・」 カリーナが台本のようなものを手渡されて無茶苦茶渋い顔をした。 「ナニコレ」 「俺が観察した限りの、お前たちの虎徹の現時点の認識だ」 ぱらりと頁を捲る。 集まったヒーロー達全員が同じように頁を捲ってううん・・・と眉間に皺を寄せた。 「バイソン、アタシのこの三下ってのはどういうこと?」 「三下っていうのはですね、博打うちの仲間で一番下っ端の事をさす用語だそうです」 日本語で。 イワンがちらりとネイサンを見上げると、ネイサンは笑顔で青筋を額に浮かべていた。 「どういうことなの」 ちゃんと説明しなさいよ! と押し寄せてきたので、うわあとアントニオは両手を小さく前に出して必死に身体を圧し留めた。 「だから! 虎徹の今の認識なんだよ! 高校時代俺にくっついてた舎弟の一人だと思ってんだ。俺に怒んなよ、でも頼むよ協力してくれ」 全く失礼しちゃうわとネイサンがぷんぷんとお尻を揺らしながら元の席に戻る。 キースが申し訳なさそうに聞いてきた。 「あの・・・・・・、私も聞いていいだろうか」 シナリオの頁を捲り、そこの自分のキャスティング部分をアントニオに見せる。 みんなもどれどれとその頁を覗き込んだ。 「この・・・、『小学校からNEXTが気持ち悪いと虎徹を苛めて苛めて苛め抜いてたNEXT嫌いの男。中学も高校も虎徹と一緒で最後は友恵さんにもちょっかいだして来てたので険悪になってたあいつ』とは一体全体どちら様なのだろうか」 「だからそのまんまだよ」 アントニオは俺ソイツの名前覚えてないんだと言った。 「ミタニだか、カトリだか、オオシマだか・・・、なんかもう虎徹のこと嫌ってるやつ相当居たからなァ。兎に角その中でもかなり虎徹にちょっかい出しててめんどくせえ男が居たんだよ。スカイハイの認識は多分ソイツだと思う。虎徹はなー高校ん時までかなり差別されてきてんだよ。日本人コミュニティってのはさ結束が固くてなにやら神秘的で優しげに見えるけど、内部はそりゃあ陰惨なもんなんだぜ。とにかく同一を好む和の民族だからそうじゃないちょっと変わったやつは徹底的に排除するところがあるんだ。ヒデエ話だよな」 みるみるうちにキースの瞳に涙が浮かんだ。 「なんてことだ、ワイルド君! そして私がその、N.E.X.T.排斥者の役だって? 虎徹君にとってのそんな辛い相手の役なのかい?」 「泣くなよスカイハイ」 うっうっうっとキースは大粒の涙を零しながら、涙で滲んで台本が読めないっとまた泣いている。 「『ようよう、近頃はぶりがいいじゃないか。そんなスケ連れて歩いて。どうよ、この化け物。今度は何を破壊するんだ? お前には人間の女は勿体無いんじゃないのか。天宮もそんな男やめて俺と付き合えよ。こんなNEXTの化け』 ・・・・・・っ」 「スカイハイさんっ」 イワンが蹲ってしまったキースの肩を心配そうに擦る。それからアントニオを見上げて酷いですよと抗議したが、彼はしょうがないなと言った後に、じゃあその台詞は折紙が言えよと言った。 「ハァ・・・いいですけ、って――ボクッ?!」 はあ!?と目を見開いてぶんぶんと首を振る。 「いやだってこれ、難しいですよ! 大体なんで僕なんですか! 僕の役割ってタイガーさんのクラスメイトだって書いて・・・」 「だからお前の役も虎徹を嫌って散々ちょっかい出してたクラスメイトなんだよ」 虎徹は一匹狼ならぬ一匹虎だったからなあ。何処のグループにも所属してなくてな、それ、N.E.X.T.嫌いの一派の一人だよ。 そんなあとイワンも涙ぐみ、それまでじっと会話に加わらず隅っこの方で静かに台本を読んでいたバーナビーにカリーナが目を走らせてぷうっと頬を膨らませた。 「しつもーん。あのさ、なんでバーナビーがタイガーの奥さん役なの? おかしくない?」 「知るか。俺がそのキャスティング決めたわけじゃねえんだぞ、虎徹自身がそういう風に認識しちまってるんだ」 「おかしいよ、だってハンサムってタイガーより背が高くない?! 明らかにおかしいじゃない!」 指をさすな。 アントニオは苦笑した。 バーナビーはしれっとしている。 「しょうがないですよ。そのN.E.X.T.にかかった時、僕ら一緒に行動してたんですから。一番近くに居た相手だからじゃないですか」 「もしくは、実際意味合いは違くともパートナーだから、ですかね」 イワンが呟くように言い首を横に振る。 しかしバーナビーは読み進めていって、次のページで硬直した。 「バイソンさん。これ、僕の勘違いでなければ・・・・・・」 最悪友恵さんが死ぬところまで、彼女を演じ続ける――虎徹に認識されたまま終わる。病室で横たわって息を引き取る場面を再現すること、その辛い記憶を自分が演じなければならないのかとそればかり頭にあったが、これを忘れていたのだ。そう、友恵と虎徹は結婚する。それもガーデンウエディングだった。 病院着でベッドに横たわるのは想定していたが、もしかしてこれは、僕が花嫁姿にならなければならないのではないだろうか。 「ちょ、これ」 無理無理無理無理。 「あー、バイソンさん、これは無理でしょう。あー、無理です。いや、これは無理です」 「やる前から諦めるなよ」 そうよそうよとネイサンが横槍を入れた。 「素敵な機会じゃない! ドレスは任せて、私が最高のを用意してあげる」 「いやいや、ちょっとそれは・・・・・・」 同じようにページをめくり、自分の役割分担から今後の流れである肝心なシナリオに進んだカリーナも物凄い顰め面になっていた。 無言でぱらぱらと最後までページを捲り一通り内容を把握すると、彼女は肩を竦め「ハンサムには荷が勝ちすぎるでしょ。こんな演技できる訳ないじゃない」と本当に嫌そうに吐き捨てるのだ。 「ハンサムには舞台経験がないんだし、無理無理」 バーナビーはむっとした。 カリーナは引きつり笑いを浮かべながら言葉を続けて「あーこれ無理、ハンサムにはむりっしょ。私がやるわよ、私の方が適役だもの、私がやるべき」と締めた。 「無理とか・・・・・・、出来ますよ演技ぐらい。なんですかそれ」 バーナビーが無駄に対抗意識を募らせている横で、ネイサンが突っ込む。 「それじゃ面白くないじゃない!」 「面白くなくていいわよ!」 なんで面白くする必要があるのよ! とカリーナがネイサンに噛み付いた。 おーこわ、とネイサンが笑いながら逃げていく背中を観ていたバーナビーは「はっ、バーナビーに花嫁姿なんてキモイだけじゃん」と更にカリーナが吐き捨てているのを聞いてむかちんときた。 「気持ち悪いのはその通りかも知れませんけど、なんでそんな風に言われなきゃならないんです」 「だって常日頃バディだ最高の相棒だとか言ってた癖に、結局そうやってタイガーの一大事にしり込みしちゃうんでしょ? はっ、その程度の付き合い・・・・・・」 「付き合いってなんですか、なんか引っかかる言い方ですね」 「女装なんてキモイしやりたくないんでしょ。だから私が代わってあげるって言ってんの!」 「お言葉ですが、普通男子は女装なんかしたくないと思いますよ。なんで僕がこんな」 「アタシはしたいわよ!」 「ネイサンは黙ってて!」 カリーナとバーナビーが同時に振返って同時に同じ科白を吐き出す。それから二人は睨み合った。 「私はタイガー・・・・・・じゃなくて仲間の一大事なら男装だって辞さないわよ。やるわよやってあげるわよ」 「ふざけないで下さい。男の女装と、女性の男装じゃハードルの高さが違いますよ。何言ってんですか」 「違わないわよ」 「違う」 「違わない」 「違う!」 「うもうぅん、だったらアタシが!」 「ネイサンは黙っててって言ったでしょう!?」 再びカリーナとバーナビーの声がハモる。 やがてバーナビーが厳かに宣言した。 「判りました、いいでしょう。ただし、ウエディングドレスは絶対オーダーメイドになるんで! ネイサンお願いします」 「任せて!」 顔を輝かせてネイサンが請け負った。カリーナはぎっと両手を握り締めてバーナビーにつかつかと歩み寄る。 「なんでしたら代わってあげてもいいのよ?」 それからギリギリと額を突き合わせカリーナが顔を引きつらせてそう言った。 だがもう売り言葉に買い言葉になっているバーナビーの方も、内心「大変な事になった」と後悔しつつもカリーナを見下すように言い捨ててしまうのだ。 「申し訳ないんですけど、虎徹さんの認識、そうそう変わりそうもないんで僕が不足ながらお相手を勤めさせて頂きますよ。不本意ですが!」 「だーかーらー、不本意なんだったらやんなくていいっていってんのよ! 私に譲りなさいよ!」 「譲れるもんなら譲りたいですよ! でも状況から考えて虎徹さんの貴女の認識 そこらへんのモブじゃないですか!」 「なんですって!」 不毛ねえ・・・とネイサンが頬に手を当ててため息を吐く。 それまで二人のやり取りに呆然と見入っていたアントニオが復活した。ぶるぶると頭を振るうと、剣突食らわせあっているカリーナとバーナビーの間に割り込み、「ちょっとお前ら冷静になれ」と言った。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |