星の棲み処(9) 5年前、世界が俺を拒んだ日。 俺は生きる事を放棄しようとした。 しかしそれは叶わなかった。 卑怯でも良かった。あの時一思いに死ねていれば、どんなに良かっただろうかと、今でも思わない日は実はない。 いや本当は世界が俺を拒んだのではなく、拒絶したのは俺の方。 解っていたのだ。 耐え難い現実を突きつけたこの世界に、俺の方が耐えられなかった。 最初から与えられなければいいものを、最上のものを差し出しておいて、あっさりそれを奪い去った。 あのときの喪失感を、俺はきっと永遠に忘れない。 俺が例え死んだとしても、この世界中の大気が、海が、降り注ぐ光が、全て記憶している。 そう、それは確かにあった現実なのだということを。 唯一人、N.E.X.Tである彼を許してくれた人だった。 唯一人、恐れずにN.E.X.Tである自分を受け入れてくれた人だった。 なにもかも、無条件に、虎徹という魂ありのままを全身全霊で愛してくれたひとだった。 楓という、愛しい存在を与えてくれたひとだった。 そして一人逝ってしまった。 この世で最も尊いひとだったのに。 しかし、もういいのではないか。 バーナビーに言った事は、実は自分が言ってもらいたかったことなのだ。 その昔、呼吸をするように自然に理解していたこと。 疑う事すらしなかった、当たり前のこと。 愛する人がいて、その人が永遠に呼吸してくれること。 同じ空気を吸って微笑んでくれる事。 抱きしめたら抱きしめ返してくれる事。 そして、世界が自分たちが生きる事を許してくれるという事を。 だが、いつまでも許されるのを待つばかりではだめなのではないか。 目の前で、バーナビーは自分が生きる事を世界に許した。 多分、そういうことなのだろう。 ふと虎徹はそんなことを思った。 考えてみるのもいいかも知れない。自分自身について、深く掘り下げようとすると、いつも不愉快な現実に突き当たっていた。 しかしもう、先送りにするのはいい加減やめなければ。 バーナビーに言ったように、失う事を恐れて、大切なものをないがしろにすることをやめなければ。 自分自身で決着をつけなければ。それがどんなに不本意な結果だったとしても、受け入れなければ。 そして許さなければ。 許さなければ。 世界を。 俺から愛を奪っていった、このくそったれな現実を。 許さなければ。 この猥雑で、苦痛と狂気に満ちた、だけど、人間そのものの街を、星を。 ――――そして俺は、許されているか。 【星の棲み処】Blessings brighten as they take their flight. 《幸福は飛び去るとき光り輝く》 CHARTREUSE.M 2011 thank you. [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |