運命の青いNEXT(4) バーナビーは魘されていた。 なんだこの夢は。 夢? 夢だろう、夢に違いない。しかしこんな種類の悪夢があるとは。 おめでとう! おめでとう! 誰かがそう口々に言う。 知らない顔だ。 知らない顔どころか最初バーナビーは何故見知らぬ女子高生におめでとうと口々に言われなければならないのかサッパリ理由が判らなかった。 どういうシチュエーションでこうなったと思うと同時に傍らを駆け抜けていく金髪にはっとなる。 振り返ると見覚えのある後姿。 そしてもう一人向こうから歩み寄ってくる人の姿にバーナビーはあろうことか胸を高鳴らせてしまった。 ホワイトロングタキシード。 結婚式のパンフレットから抜け出したように完璧なその姿にバーナビーは「馬子にも衣装って、こういうときに使う言葉なんですね」と言いそうになった。 そういう仕事、入ってましたっけ? これは夢だという認識があるのに、同時に普通にその状況に自分をおいてリアルに思考してしまう自分がいる。 はて、どういう現象なのだろうと考え込んだその瞬間、バーナビーは顎が外れるかと想うほど驚愕した。 「カリーナ結婚おめでとう!」 「ワイルドタイガーと結婚なんてやるじゃない」 へっ? 意味が判らずよく見ると、虎徹の傍らに立っている女子高生がいつの間にかウエディングドレス姿になっていて、その人物はバーナビーも良く知るブルーローズだった。 「な――!」 バーナビー絶句。 いつの間にか女子高生だけでなく、既知の顔がそこここに現れていた。 アントニオが、再婚おめでとう! よろしくやりやがって!と言った。 あら、すみに置けないわね、何時の間にできあがってたのあなた達。 そうアントニオの後ろからネイサンが笑顔でそういいながら、カリーナにブーケは私の方に投げるのよ!と命令していた。 キースが空から舞い降りると、「おめでとう、そしておめでとう!」といい、イワンとパオリンが笑顔で拍手している。 「ありがとう! 幸せになるわ!」 カリーナがそう言って、そんな彼女に歩み寄ってくる男の人は恐らくカリーナの父親だろう。 「タイガー君よろしく頼むよ」 「はい、必ず幸せにします」 教会の鐘が鳴る。 呆然とバーナビーが空を見上げると、ピンク色の綿菓子のような雲からロリポップキャンディーが雨のように降り注いできた。 白い鳩が大きな赤いリボンを空に開き、虹がぐいーんと扇状に広がっていくと沢山のハートマークが小鳥のように飛び回る。 おめでとう! 幸せにね! 地上ではまだ人々がそう言っている。 バーナビーは見た。 鳴らされる鐘の横からにゅっとラッパが出てくると盛大に吹き鳴らされる。 判りたくないのに判ってしまった。 カリーナが手を振る虎徹の横で思い切り拳を握り締め、「よしっ! よしっ!」と呟いているのが見えた。 これは祝福の鐘じゃない、勝利のファンファーレだ。 そして突然のホワイトアウト。 いきなり情景が変わって、今度はどうやら二人の新居らしい。 スイートホームってやつだろうか。 先ほどと違って部屋の趣味はまだまともだった。 少なくとも少女趣味なものではなく変に現実的な木造一戸建。 そのリビングの床に二人で座って一緒に読んでいるのはなんだろう? 「私はベビーベッドはこれがいいと思うの。 タイガーはどう思う?」 「いいんじゃないか? でも高くないか?」 「いいのよ! うちのママにねだってもいいし・・・、そう! ヒーロー仲間にプレゼントして貰えばいいわ! 出産祝いはベビーベッドがいいなって」 「一寸図々しくない?」 「いいのよ! みんなそれぐらい稼いでるんだし」 呆気にとられて情景を眺めているバーナビーの目の前で虎徹が優しく言った。 「俺は一人でも頑張るから、無理すんな」 「充分貯蓄もあるしお金の心配はしないでいいのよ! もしタイガーがヒーローを引退することになっても問題ない。 次の仕事が見つからなくても私が稼ぐから」 待て、虎徹さんを紐にするつもりか。 バーナビーは待て待て!と横からカリーナに突っ込みを入れていたが、全く気づかないようだ。 虎徹も「そうかあ? カリーナは頑張りやさんだから心配だよ。 赤ちゃんできたら絶対産休取れよ」等と満更でもないようだ。 んなわけあるか! 大体僕はどうなったんです! と思って三度驚愕した。 「いや、お前が居てくれるからまだまだ俺も現役で居られる。 シュテルンビルトには タイガー&ローズが必要なんだよ」 愛してるよ、奥さん。 私もよタイガー。 ――気が狂う。 バーナビーは怒りの余り、ぶるぶると震え出した。 勿論これは夢の中の話だと判っていてもだ。 「だから僕はどうしたんです――、ブルーローズさん、あんまりじゃないですかこれ・・・」 そう思うや否や、怒りの為か目の前にあった窓の一つ、その風景が揺らめいて消えて奥に何かが見えた。 あれ、これは何の情景だろう・・・虎徹さん? 病院の廊下らしきところに、アンダースーツ姿の虎徹がおり、そっと自分の手を取るのが見えた。 何故か直感で思った。 この窓の向こうに見えているのが現実だ。 現実の虎徹さんが居る。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |