Novel | ナノ

運命の青いNEXT(5)


窓に向かって駆け出すと、今まで仲睦まじく語らいあっていた カリーナと虎徹の姿が歪んで消えた。
世界は瞬時に薄暗く、なにか狭い空間に閉じ込められたようになり、窓は依然として前にあってそこから外界が見えている。
部屋の中に声が反響した。

――何よムカつく。レディーファーストじゃないの。ハンサムにつきっきりなんてずるい。私の手も握っててよ。

 なんだこれ。
バーナビーは辺りを見回す。 見回したような気になった。
いつの間にか自分自身の姿も溶けて消え、今自分は意識だけの存在なのだとふと悟る。
外界を映す意識の窓の外に見える虎徹の顔が拡大されて、手に触れる唇の感触。 途端に木霊する大音量のカリーナの声――心。

――キスされた! 謝られた! タイガーにキスされた、キスされた、手にだけれど、いつものタイガーと違う、いや何時ものタイガーだ。どうしよう嬉しい。タイガータイガータイガー。

 五月蝿い! そう叫びそうになってバーナビーは理解した。
 これは、ブルーローズ、カリーナの身体だ。

え、なんでどうして。 そういうNEXTだったのか? いやこれはそうだそうに違いない。
そこまで思考してバーナビーははっとなった。

――好き、大好き、私のタイガー。ハンサムより私を見て。ハンサムになんか負けない。所詮あいつは男で私は女。勝つのは私よ。何考えてるの?そんな馬鹿なことあるわけないじゃない。そんなことない、あいつら接近しすぎ、仲良すぎ。男同士なのにおかしいよ。気持ち悪い。私が相応しい。ハンサムはタイガーが好きなんだ。きっとそう。まさかホモ? それより自分! 今がチャンスなんじゃない? そう今よ、今がチャンス。ハンサムから守る。私が守らなきゃ。タイガーに好きって言う。告白する!

 無茶苦茶言われてるなあとバーナビーは思ったが、辿りついたカリーナの思考に驚愕した。
え、まさか本気なんですか? 前々から虎徹が好きなのではないかと疑っていたけど、まさかよもや本当に好きで、しかも隠せていたと思っていたのに微妙にばれている。
いや完全にはばれていない、まだ疑惑の段階だけれど、僕が虎徹さんの事を好きだって――この女は気づいている。

 バーナビーは動揺した。 いやだ、阻止、阻止阻止阻止・・・、いやまて、なんだって 告白?!

「駄目!駄目です、駄目駄目! やめてください!」
 バーナビーはどうしようとパニックに陥った。
告白なんてさせてたまるか。 ついでにその疑惑、絶対口止めしなければ!
そう思い窓に張り付いてがんがん叩くとカリーナが苦痛の呻きをあげた。

――痛い! 痛い! 頭が痛い! ナニコレ、私どうしたの? 痛い・・・! やだ、気持ち悪いよ。 あっ、タイガーが抱きとめてくれた! とめてくれた、タイガーの手が私の身体に。タイガーが私を触った。抱いてくれた、抱き上げてる。嬉しい、タイガー、抱きしめて放さないで。タイガーが私をお姫様抱っこしてくれてる。本来これが正しい姿よね。

 カリーナの意識が反響し、バーナビーは今度こそ堪らず絶叫した。
「彼はお姫様抱っこする方じゃありません! される方です! そしてしていいのは僕だけです!」

 暗転。




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