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琺瑯質の瞳を持つ乙女(15)


 気分はドナドナ。
アッバス刑務所に移送・・・というのは単なる囮の意味ではなくやっぱついでにそのままアッバス行きなんだろう。
また罪重くなっちまった。気がかりはイワンの事だ。アイツはちゃんと釈放されたかな・・・。そうじゃなきゃ堪らない。こんな些細な恩の返し方しかできねーけど、まあこれも俺のせいっちゃ俺のせいだから。
 エドワードは格子の入った車窓から外を見る。曇りガラスなのでぼんやりと何か色が滲んでいるというのしか判らなかったけれど、車に乗るのも久しぶりだなと少し楽しくもあった。
ぼーっと曇りガラスを見ていたエドワードはどのぐらい時間が経ったのかふと妙な違和感を感じた。
窓ガラスの横から灰色の煙のようなものが伝ってきていて、それがするすると運転席の方に流れていくように見えたからだ。なんだろうと暫く凝視していたが、どうやら細かい砂のようなのだ。砂漠を車で走ると窓が茶色に煙ってしまいどんなにぴったりドアを閉めていても何処からか砂が入り込んできて車内が砂だらけになるのよと言っていたのは誰だったか。学生時代に砂漠へ旅行に行った学友が話してくれた事だったろうか?
「な・・・、アッ――ギャッ! ぐああ・・・・・・!」
 恐ろしい悲鳴が運転席から上がった。
エドワードも吃驚してそちらを見やったが、両側に座っていた刑事が二人ほぼ同時に立ち上がって懐から銃を取り出した。
「大丈夫か?! どうし――」
 刑事は皆まで言えなかった。
するすると、粉のようなものが運転席から溢れ出てくるとそれがエドワードを含めて車内にいた全ての人間を取り囲んだからだ。
それが本当に砂だと知ったのは完全にそれに纏わりつかれ、鼻と口に入り込んできてからだった。
「あぐっ・・・?!」
 口の中と鼻の中にその砂は生き物のように入り込んできて完全に呼吸が奪われる。余りの苦しさに全員が七転八倒した。唯の砂ではない。これは――N.E.X.T.?
足をじたばたさせがんがんと手で床と壁を手当たり次第殴る。掴んで引き剥がそうにも砂は細かくするすると滑り落ちていって掴むことも出来ない。
 死ぬ。
エドワードは落ちていく意識の片隅でそう思った。



 車内に居る人間全ての意識を奪った後、その砂は悠々と運転席の横に集まっていき一人の人間となった。
運転席の男はすでに絶命している。特に命を奪う気は無かったのだが、最初に襲ったからか少々呼吸を奪う時間が長すぎたようだ。
男は邪魔な運転手を席から引き摺り下ろすと横に除ける。それからふむと顎を杓った。
 恐らくこの男にも護送車にも発信機が取り付けてあるだろうし衛星からトレースもされているに違いない。
 ザントマン。
その名の通り自分自身を砂に変化させる事が出来るその男は後部座席で倒れている三人の男を見る。目的の相手はエドワード・ケディ、そう手に入れた。
ザントマンは自分自身を砂にして何処にでも入り込めるし風に乗って移動することも出来たが、誰かを共に砂にして連れて行くという事は出来ない。それ故に護送車ごとさらおうと考えた。移動用に別の車を用意してあり、そこでエドワードだけを乗せかえ護送車は捨て置くのだ。エドワードの身体につけられているだろう発信機はどうにでもなった。妨害電波の用意も万全だ。後は自分のアジトである治外法権エリアに連れ込んでしまえばいいのだから。



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