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琺瑯質の瞳を持つ乙女(13)


「ずっと引っかかってた事があるんです。宝石を・・・奪う事を目的としてたのなら全部刳り貫いてでももって行くべきなんだ。でも落ちてましたよね、足元に。砕かれて捨ててあった」
「あ、ああ? そういや下に落ちてたな」
 でも黒曜石は天然のガラスだってお前言ってたじゃん。それは宝石じゃないからわざと捨ててたんじゃないのか?と虎徹がいい、パオリンがえー、何の話と聞いてきた。
「刳り貫かれてたのは、アメシストだったと思います」
「アメシストは宝石なの?」
「宝石だよ!」
 パオリンが笑って会話に加わる。
「紫水晶だよ」
 そういって身じろぎすると、寄りかかっていたカリーナが眼を覚ました。
「何の話?」
「おはよう、ブルーローズ、少しはすっきりした?」
 紫水晶についての話。 パオリンはそう説明するとカリーナは身を正して虎徹に言った。
「アメシストってギリシャ神話か何かに出てくる乙女の事よ。バッカスに意地悪されて虎を嗾けられるの。あわやってところで月の女神ダイアナがアメシストを石に変えて助けてくれるんだけど、まあそこらへんの石ころにされちゃったわけで。後からバッカスがこれじゃあんまりだって反省して石にぶどう酒をかけて宝石にしてやるのよ。まあでも石だけど」
 虎。
パオリンが詳しいねえ、タイガーに関係してる事だから?と屈託無く聞いてカリーナを慌てさせた。
「そ、そんなんじゃないわよもう!」
「虎がでてくりゃ全部俺をイメージするってのもどうなんだ」
「タイガーは関係ないわよ!」
「アメシストは悪い酔いに効くっていうわよね」
「司祭様なんかがつけてるアレだろう」とキース。
 へっ?と言いながら虎徹が振り返り、キースは肩を竦めた。
「紫は愛と献身の色だと言う。私が通っている教会の司祭様もその衣を身につけているし、キリスト教の伝統で紫水晶は男性の宗教的献身のシンボルとなっている。ほら胸元を飾っているロザリオなんかによくついてるだろう?」
 キースが両手でこう小さく摘むような仕草をする。それにカリーナも頷いた。
「判る判る。ロザリオの鎖についてるわよね。12種類の宝石の一つじゃないの」
「それって使徒の数なわけ?」
「タイガーって何にも知らないのね。常識じゃないの」
 カリーナに鼻息を飛ばされて「俺、お前らと宗教違うしー」と虎徹が頬を膨らませた。
「ボクもあんまり知らないよ。中国にはそういう神様いないし。聖人崇拝なら意味が判るけど」
パオリンがそんな虎徹に助け舟を出す。
「日本と中国は一神教には馴染みがないんだ。しょうがないよ。それよりそれって誕生石じゃないの? 違うの?」
「そう、元々はエルサレムの土台石に飾られている石の事だというのが有力な説だね。現在では誕生石として伝わっているものだ。土台も第12まである」
キースが微笑んで頷く。虎徹もそれなら俺も判るぞと肩を竦めた。
「誕生石ならなんとなく知ってる」
「で、結局何?」
 ネイサンが頬を右手で押さえながら嫌そうに聞く。それにはバーナビーが、やっと口を挟むタイミングが掴めたと勢い込んだ。
「理由は判りませんが、僕はザントマンが目を必要としてるんだと思うんです」
「刳り貫くのが目的ではなく?」
 単なる猟奇殺人者なんじゃないのかと暗にアントニオが言うとバーナビーは首を振った。
「最初の犠牲者には特に共通した事はなかった・・・あるとすれば女性だと思ってましたが、昨日から司法局が開示してくれた犠牲者の一覧を見て気になってる事があるんです。被害者の特徴を見て下さい」
 全員が司法局から貰った資料をPDAに出す。
バーナビーがいいですかと頭から犠牲者の特徴を読み上げた。
「女性 18歳 髪ブラウン 瞳ブラウン。 女性 27歳 髪ブラック 瞳ブルー。 女性45歳 髪オーク 瞳ヘイゼル。 女性14歳・・・・・・」
 ふむふむと頷きながらデータを見ていたカリーナが「えっ」と声を上げた。
「判りましたか?」
 バーナビーが読み上げるのをやめて皆を見渡す。
キースが薄気味悪そうに言った。
「途中から瞳が全員ブルーだってことだね。青い瞳に用があるとか?」
「そうです。もっと不気味なのがこの先です。ここまでは全員女性だったのですがこの先、ザンドマンがA州に移ってからが更に不気味な事に」
 そうして読み上げた今度の犠牲者の特徴は確かに不気味だった。
「13歳 女性 髪ブロンド 瞳グリーン。 28歳 男性 髪ブラウン 瞳グリーン。 80歳男性 髪ホワイト 瞳グリーン。 39歳女性 髪プラチナブロンド 瞳グリーン。――」
「緑の瞳に移行した?」
 バーナビーが頷く。
その翡翠の瞳に虎徹が喉を鳴らした。
「お前、危険じゃね?」
バーナビーは首を振った。
「これ、続きがあるんです」
 それから最終頁を観るように促してバーナビーは説明した。
「最終頁は現在進行形、つまりこのシュテルンビルトで現時点発生したザントマン事件と思われる犠牲者の詳細です。思うに、ひょっとしてザントマンがその警戒して襲撃を少なくしているのではなくて条件にあった瞳を持つ者が非常に少ないからではないかと」
「だから何?」
「犠牲者瞳、何色になってます?」
「・・・・・・え、ICOバイアイ(bi-eye)」
 カリーナがPDAをまじまじと見つめながら言う。それから「あっ」と声を上げた。
「サッパリ判らねぇぞ」
 虎徹が言うに、ネイサンがその横腹をどついた。
「ICO(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)よ。N.E.X.T.でもあるじゃないの。目の疾患・・・10と9って何の疾患?」
「ワールデンブルグ症候群、恐らく彼女は虹彩異色症だったんです。近縁者の方々の証言によると、右目は金茶、左目は赤みがかったブルーだったと」
「・・・・・・パープルアイ――」
 まさか!
ネイサンがバーナビーに言った。
「今度の標的はパープルだってこと?! そんな、どれだけレアだと思ってンの!」
「何度も言いますが理由も目的も僕には判りません。それにこれは僕の勝手な予測です。でも僕はザントマンは特定の色をした瞳を捜しているのではないかと。今はそう純粋に紫の瞳をした――」
 全員が全員イワンに振り返った。
イワンは「えっ?僕ですか?」と間抜けに自分を指差してそれからまさかと言った。
「じゃあ、エドワードが犯人だって投書はまさか――――」
「その可能性があります」
 えっ、えっ?
キースとカリーナは判らないとおろおろし、ネイサンは判らないわ教えて!とバーナビーに飛びついた。
虎徹は厳しい顔をしていたが「いくぞ」とバーナビーの肩口で呟いてイワンを促す。
「おいっ、虎徹お前判ったのか?」とアントニオが言えば、「ああ」と応えた。
バーナビーも頷いて虎徹の後について出て行こうとしたところで、三人の背中にネイサンが絶叫した。
「説明して!」
バーナビーは振り返らずに言う。
「エドワードの瞳は折紙先輩と一緒で非常に珍しい クリアなヴァイオレット(紫瞳)なんです。折紙先輩はヒーローで犯罪暦のない一般市民として検索にはひっかからないので問題ないですが、エドワードは二度の犯罪暦を持っているせいで司法局の検索で調べる事が出来ます。HERO TVでも顔写真が放映されたことがあるので、ザントマンがレアな紫瞳を持つ者を探すとすれば一番最初に狙われてしかるべきなんです。だとするとザントマンがエドワードであるという情報を司法局に流したのも、エドワード減刑嘆願書の件も裏で全て繋がっている。エドワードを刑務所からなんとしても犯人は出したかったのではないかと。それにエドワードは奇しくも「砂を操るN.E.X.T.」だ。彼は全てにおいて嵌めやすかったんですよ。そして彼の目論見は成功した。エドワードは再びアッバス刑務所に移送される事になった。恐らくその護送の最中に彼を襲うつもりだ。それが真実の狙いだったんです」
 ネイサンは成る程と頷き、カリーナとパオリンが私たちも行く!と叫んで駆け出した。



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