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琥珀を捕む夢(19)


 シュテルンビルトが一望できるゴールドステージにある特殊病棟、その一室で友恵は灰色にたれこめた空から雪が舞い落ちてくるのを眺めていた。
「友恵ちゃん、どうだい、少しは良くなったかい?」
 オリエンタルタウンから何時も見舞いに訪れる京に、友恵は儚い笑顔を向ける。
そして今日はシュテルンビルトに出張してきている本(モト)も同行していた。
「今日は大分調子がいいです。――楓は?」
 京と本は顔を見合わせた。
「大分落ち着いたよ。 お父さんもいないお母さんもいないしで随分長い事ぐずっていたけど無理も無いさね」
「どうしてだか、まだ楓ちゃんには解らないもんなあ」
 そうですねと友恵は微笑む。
その笑みが余りにも弱弱しくて、京は密かに涙ぐんだ。
「虎徹君は・・・」
「ちょいと調子崩してるけど仕方ないさね。 奥さんがこんな病気で気が気じゃないんだろう、許しておやりよ」
 京のその言葉に友恵は笑んで、「賠償金、増やしすぎちゃわないかな」と呟く。
なんとも応えられずに京と本は再び顔を見合わせた。
 それから長く沈黙があった。
友恵は窓の外を見つめ続け、ちらちらと雪が降り注いでいて。 音もなく舞い落ちるそれは余りにも静か過ぎて胸を痛ませる。
友恵は恐らく知っているのだろう。 虎徹は狂乱して治療法を探し多くの病院を巡り最後まで諦めない、希望にしがみ付いてやると息巻いているが、京には目の前に突きつけられた事実から逃げ回っているようにも見えた。 しかしそれも無理は無いことだろう。 傍から見ても虎徹と友恵は仲の良い、本当に愛し合った夫婦だった。 いつでも互いに互いを寄り添わせているような何処か懐かしさを漂わせる美しい二人で、余りにも完璧で夢に見るような儚さがあったものだから余計に二人が到った今の境遇が哀れでならなかった。
 何故、一体どうして。
「夢を――」
 夢を見たんです。
微笑んで友恵は云う。 誰とも無く、窓に向かって呟くように。
「幸福な――、夢でした」
「友恵ちゃん・・・・・・」
 京がそっと身体を伸ばして右手に触れると、思い切ってそれを握り締める。
驚くほど細い腕だった。 本当に細くなってしまった腕だった。
「ありがとう、京さん」
 それから友恵は本を見つめた。
「ありがとう、本さん」
「・・・・・・」
 本がはっとなったような顔をしたと思った。
京は友恵と本の顔を交互に見て、内心首を傾げる。
友恵は元気になったら海に行きたいなあと言った。
「海の向こうに。 真っ青できっと綺麗だろうなあ」
「オリエンタルタウンには海がないからね。 こっちはでも泳げる海ないだろう? 大抵みんな海を見ながらプールだって」
「そうですね」
 友恵がくすくすと笑う。 京もつられて笑ったが、何故か本は笑わなかった。
しんしんと雪が降っていた。



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