Novel | ナノ

琥珀を捕む夢(5)



 友恵は夢の中で、随分と昔の夢を見ているなと自覚した。
HERO TVでニュースをやっている。
シュテルンビルトでまた銀行強盗があったのだけれど、レジェンドが何時ものように阻止したのだと。 全くいつもの事で友恵はワクワクしながらニュースを見ていて、ヒーローが居るからこういった怖い事やいけないことはシュテルンビルトでは心配する必要が無いのだわと思っていた。 しかし今日のニュースは何時もと違っていて、銀行強盗を捕らえたというレジェンドの横に、日系人らしい男の子が居る。
 なんて綺麗な琥珀の瞳だろう!
友恵はドキドキした。
 いいな、レジェンドの隣で笑ってる。 ニュースに流れる字幕を読むとこの少年もN.E.X.T.なのだと書かれていた。
彼もまたヒーローなのだとレジェンドのコメントが載っていて、友恵は無意識にわあと声に出して言った。
 その年のクリスマス。
友恵は両親に連れられてシュテルンビルトに観光旅行へと行った。
スケートリンクではしゃぎ、ジャスティスタワーに登り、途中通りでニュースに流れた銀行を見つけて喜んだ。
レジェンドが助けたあの銀行だわ。 お母さん、ほらここニュースでやってたわというと母も優しく微笑んだ。 ゴールドステージのセンター街。 そこは通り一帯が市場になっていて、クリスマスの出し物で一杯で。 友恵は両親に熱々のドーナツを買ってもらって通りに出されていたベンチに座ってそれを食べた。
そこでなにか問題でもあったのか、両親が揃って少し強い口調で言い合っている。 その後困ったように友恵を見て直ぐに戻るからここで待っていてねと二人揃って小走りで何処かへ行ってしまった。 一応店内だし大人しく座っているだけなら問題ないだろうと両親は思ったに違いない。 実際問題などあるわけがなく、友恵はドーナツを食べながら両足をぶらぶらさせて、目の前を風船を持って行き来するサンタクロースや、バイオリンの弾き、陽気なトナカイの扮装をした一団の大道芸などを見て意外に愉しく待っていた。
 シュテルンビルトは美しく綺麗で高くて大きくて。
友恵は空を見上げる。 ゴールドステージなので上には何も無く、ただ冬の灰色の空からちらちらと氷の欠片が舞い散るのが見えた。
 ふと、ベンチの端に視線を落とすと、ベンチの足の付近にきらりと輝くものがある。
「?」
 友恵は身体を折ってベンチの下を覗き込んだ。
その右の方の足の横に、金色に輝く艶やかなものを見つける。 手を伸ばして掴んでみると、それは滑々した丸い小石のようなものだった。
手を開いて掴んだそれを観て友恵はわあと声を上げる。
綺麗な金色の石! 直ぐに判った。 琥珀だ。
中に何か葉っぱの様なものが入っていて、更にこの琥珀は角度によってブルーに輝いて見えた。
最高級のブルーアンバーだ。 凄い凄い、どうしてこんなものがここに落ちているのだろう?
 ドーナツの残りを飲み込んで、友恵はそれを掌におさめて覗き込んで綺麗だなあと暫し見惚れていた。
ふと気づくと視界の中、屈みこむ仕草を繰り返す男の人がいる。
大きな黒い鞄を抱えて、なにやら必死の形相で。 「ごめんなさいよ、はい、すみませんよ、ああどうしよう」等と呟くその言葉は日本語だった。
日本人でいらっしゃるのねと友恵は思い、暫くその男の人を眺めていたがその仕草はひょっとして何か落し物を探しているのだと唐突に気づいた。
 もしかしてコレ?
友恵はベンチから立ち上がってその男の人のもとへといく。
そして意を決して、息を吸い込むと呼びかけた。
「おじさま」



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