首にスカーフは巻いているが、服の素材は薄手に見えた。 「寒いよ。でも、門をあけてくれるまでの辛抱だしさ…」 はーっと息を手に吹きかける。その赤くなった小さな手を見て、ゼロスはマフラーを外して差し出した。 「…これ、あげる」 「え、いいよ、こんな上等なマフラー、あたしには似合わないよ。あんた、貴族なんだろ?」 少女は両手をぶんぶん振った。 「でも、女の子は体冷やしちゃダメだって…」 頑として聞かない初対面の少年に、少女は戸惑っていた。少し考えてから、ぱっと顔を上げる。 「じゃあ、こうしよう」 そう言って少女はゼロスの手を引いて、自らの横に並ばせた。そして、ひとつのマフラーをふたりに巻く。 「これで、ふたりともあったかいだろ?」 笑顔。ゼロスはその笑顔に見とれた。 「すぐ研究員の人が来て、門を開けてくれるとは思うけど…それまでこうしててもいいかな?」 「う、うん…」 くっついた肩や腕が熱い。妙に緊張していたのを覚えている。 その少女のことを知ったのは随分後だった。 「あー…、あれか…」 「え?」 呟いたゼロスに、しいなは顔を上げた。 「いや、なんでもねーよ」 「何それ」 しいなは多分覚えていない。覚えていたとしても、あのときの少年が今隣にいる男だとは露ほども思っていないだろう。 子犬がじゃれ合うような関係にも届かない初恋だった。 あの時、フラッシュバックした光景にめまいを感じた。それでも倒れずにいられたのは、あの少女のおかげだった。 「…だからか…」 「さっきから何なんだい?」 「なんでもねーって」 呆れたような溜息。じゃあ声に出すな、と小さく聞こえた。 だから、こうしていると胸が熱いのだ。今でも雪は嫌いだし、すーっと血の引く感覚がある。 なのに、こうしてしいなと共にいると、泣きたくなるくらい、胸が熱くなる。 群青色にふたりの白い息が溶ける。星が綺麗だ。 ゼロスはそっと手を伸ばし、しいなの手を掴んだ。途端にその頬が染まる。 「…な、なに?」 「…冷たい手しやがって」 ぎゅっと握られて、しいなは言葉を失う。耳まで赤くして俯いてしまった。 「…もうちょっとだけ、こうしてていいか?」 あの時とは逆の立場で聞いた。 「…うん…」 しいなは答えた。あのときのゼロスと同じように、俯いて、頬を赤くして、熱い腕と肩で。 妙に緊張した声だった。 END. |