テセアラ最大の行楽地アルタミラ。ロイド達一行は厳しい旅の途中に、息抜きをすることにした。 「女の子だけでウインドウショッピング…っていうのも楽しいね!」 コレットは満面の笑みを浮かべた。旅のなかでの買い物は、必要物資の補充くらいだったからだ。 「そうですね。私も…幼い頃にアリシアとお菓子を買って以来です」 「あたしも…旅とか任務とかでしか滅多に買い物なんかしないからねえ」 プレセアとしいなも笑った。 「たまには、こういう時間も必要かもね。私自身、書店や骨董屋以外を見て回るなんてしないもの」 リフィルも辺りを見渡しながら微笑んだ。 「さすがレザレノ・カンパニー直営のショッピングモールだわ。本当にゆりかごから墓場まで、ありとあらゆるものが揃っているようね」 「そうだね。レザレノ自体がテセアラ随一の企業だから、食料品や衣類、家具や武器までなんでもござれってとこかな」 しいながリフィルに応える。コレットもきょろきょろと落ち着きなく視線を巡らせ、わあっと声を上げた。 「可愛い! こんなお洋服着てみたい…」 「きっと似合いますね」 女の子向けのブティックのショーウインドウでコレットとプレセアが足を止めた。いかにもコレットが好みそうな淡いブルーの清楚なワンピース。 「この際だから、何か買ってみたらどうかしら?」 「そうそう、そんな聖職者みたいな格好じゃなくてさ。その辺の女の子が着てるみたいな服も、きっと似合うよ」 コレットは神子として生まれたことを不幸だと思うことはなかったとはいえ、普通の女の子への憧れがないかといえば、それは別の話である。 「え…っと…、どうしよう」 ちらりとプレセアを見る。頷きが返ってきた。 「私も賛成です。せっかくの機会ですから」 「ほら、プレセアもそう言ってるじゃないか」 「でも…わたし、流行りとかよく解らないし…」 まだ怖じ気づいているコレットの肩にリフィルが手を置いた。 「ここは流行の最先端よ。私も詳しくはないけど…一緒に選びましょう。どうしてもしっくり来ないなら、店員さんにコーディネートしてもらえばいいのよ」 「そうそう。大丈夫、きっといい服が見付かるさ」 「イメチェン、ですね」 ふふっと笑うしいなやプレセアに、コレットははにかむ。 「…じゃあ、少しだけ、見てみようかな」 「そんなこと言わずに、じっくり見なよ」 「まったくだわ。さあ、どんな風にイメチェンするのかしら?」 詰め寄るしいなとリフィルにコレットはたじろいだ。 「え、え、しいな、先生…」 「思いっきりイメチェンして、ロイドさんたちを驚かせましょう」 「プレセアまで…」 困ったように、それでも嬉しそうにコレットが笑う。 「さあ、どんなふうになりたい?」 「…あのね?」 「うん?」 もじもじと指で指をもてあそんでから、意を決したように拳を握る。 「大人っぽく…、かっこよくなりたいの。先生やしいなみたいに」 「え…」 しいなはまぶたをしばたたき、リフィルは目を大きく見開いた。 「素敵ですね。どうせチェンジするのなら、思いっきりしちゃいましょう」 すかさずプレセアが口を挟む。コレットの持つ憧れは、精神と違って肉体が幼いままのプレセア自身も感じたことがあるからだ。 「あ、あたしは別にかっこいいとか大人っぽくはないよ…。リフィルはともかくさ」 照れてしまったしいなを一瞥してからリフィルはコレットに向き直る。 「そうね…。いろいろ試してみるのもアリかもね」 「はい!」 太陽の下で花開くひまわりのような笑顔に、3人もつられて笑った。 「…似合うかな…?」 試着室から出て来たコレットに3人が頷く。 目の粗い麦わら帽子、髪は三編みをふたつ下げ、白い無地のタンクトップシャツに紺色ジーンズの折り返しがついたハーフパンツ。帽子とサスペンダーには揃いの、ひまわりのコサージュ。サンダルはくるぶしまでの編み上げタイプだった。 「今までスカートしか見たことなかったから、すごく新鮮だよ」 「少しボーイッシュな感じが、かえっていいイメチェンになってますね」 「意外と言っては失礼かもしれないけれど、よく似合ってるわ」 褒めちぎられてコレットは照れ笑いした。 「みんな、ありがと…」 鏡の前に立ち、コレットはいろんな角度からの自分を見る。それから鏡を覗き込んだ。 「…まだ何か足りないかい?」 しいなが首を傾げる。コレットは小さく唸った。その様子にリフィルがふっと笑う。 「少し待っていなさい」 どこへ行くのかとプレセアが質問する前に、リフィルは去ってしまった。ポカンと口を半開きにしたコレットやしいなが立ち直る前に戻って来る。手に何かを持っていた。 「先生、それは…?」 |