「あいつらは地と氷。あんたはそれを相殺できる風と炎を持ってる」 「おいおい、いくらできそこないでも、奴らは精霊でしょー? いくら俺さまでも無理があるぜ」 あたしは笑った。 「策があるんだ」 ゼロスは三回ほど瞬きをした。 「策?」 「ああ。…コリン!」 コリンはすぐに足元に寄ってきた。 「なんだこいつ?」 「コリン」 口をへの字に曲げる。 「…そーゆーことでなく」 「説明はあと。コリン、奴らを引き付けていてくれるかい?」 「いいよ」 隣で「しゃべった!?」と驚く声が聞こえたが、とりあえず無視した。 「無理しちゃダメだよ」 「うん」 すぐにコリンは向かっていく。あたしも時間が惜しいとゼロスに向き直った。 「あんたから見て、どっちが楽に倒せそうだと思う?」 「地精霊だな。固いが、動きはとろい」 「意見が合うね。じゃあ先にそっちをやるよ。あたしがもう一度動きを封じるから、あんたは出来るだけ強い魔術をぶつけて。一気に倒したい」 「…俺さまの魔力で行けるのか?」 「大丈夫、策があるって言ったろ?」 ゼロスはじっとあたしを見た。 「…わかった。信じる」 あたしは札を出す。二枚。一枚目はさっき使用した、動きを封じる符術だ。 地面を蹴る。 「コリン、地精霊からやるよ! あんたは氷精霊を!」 コリンは地精霊から離れ、氷精霊を引き付ける。ちらりと後ろを見ると、ゼロスは既に詠唱を始めていた。 あたしはまず地精霊の動きを封じた。それからもう一枚の札を取り出し、叩くように強く貼り付けた。強い力が一気に符に流れ込み、抑えるだけで精一杯である。 符を剥がし、地面を蹴った。 「ゼロス!」 呼ぶとほぼ同時に風が疾る。かけらがひゅうっとあたしの頬を撫でた。 風に切り刻まれ、黄色の光が一気に小さくなる。 あたしはすぐにゼロスの元に駆け寄る。 「…やったな。どんな手を使ったんだ?」 「いいから。先に氷精霊を」 ゼロスはコリンと氷精霊を見た。 「どうする気だ?」 「さっきと一緒だよ。あたしが動きを封じる。あんたは炎を放つ」 言いつつ、今度はゼロスの後ろに付いた。 「…今度は突っ込まないのか?」 「これがあるからね」 先程地精霊に貼り付けた札を取り出し、あたしはにっと笑った。 まずは動きを封じる符を放つ。ここまでは同じだ。 「コリン!」 符術が届くギリギリでコリンは避けた。あたしは詠唱しているゼロスの背に触れる。正確には、札を押し付けた。 「…ゼロス、とどめを」 動きを封じられた氷精霊の足元に、火口が現れる。 「うおっ…!」 吹き出た炎の大きさに、術を放ったゼロス自身が驚いていた。 「なんだこりゃ…」 背中にくっついているあたしに、頭だけ振り向く。 「…これは…?」 あたしは顔を上げて視線を合わせた。 「…地精霊のマナ」 地精霊からマナを吸い取って弱らせ、それをゼロスに送り込み魔術を強化したのだ。 「…一石二鳥、だな」 物珍しさを隠さずに、しかしすぐ笑った。 「しいな、まだだよ!」 コリンの声に、あたしはゼロスを突き飛ばした。消えかけた微かな光が、あたしの腹にぶつかってきた。 「かはっ…!」 「しいな!」 コリンの高い声とゼロスの低い声が重なる。 「大丈夫…、来ないで」 ふたりの動きを制する。あたしは青い光をぎゅっと抱きしめた。 「あんたも…怖かったんだね。ごめんよ…」 ゼロスは眉を寄せた。 「…怖い?」 「地精霊も、氷精霊も、こないだの雷精霊も、…コリンも、みんな人間が嫌いだし、怖い。狂暴だからって閉じ込めたりするから…」 ゼロスの呟きにコリンも呟き返す。 「ごめん…ごめんね。勝手に作っといて、勝手に苦しめて…」 この人工精霊たちの気持ちは、痛いほど解った。 「だから…、だから、あんたは眠りな…。あたしがちゃんと責任持つからさ…。またあんたが苦しんで生まれたりしないように…」 青い光は少しずつ小さく、小さくなって、消えた。 あたしはゆっくりと立ち上がってふたりを見る。 「…終わったよ」 笑顔を見せたつもりだったが、コリンは心配そうにこちらを見ていた。何も言わず、ゼロスがあたしの両頬を、両手で優しく覆う。 「優しーんだな」 「え…」 泣いていた。ゼロスは手袋が汚れるのも構わず涙を拭ってくれた。 「コリン、人間は嫌い。でもしいなは好き。だから、泣かないでよ、しいな…」 「コリン…」 あたしはコリンを、次にゼロスを見た。ゼロスは真剣な眼差しでこちらを見ていたが、ふっと笑った。 「泣くな。美人が台なしだ」 「ゼロス…」 彼なりの慰めだと理解する。あたしはもう一度自分で涙を拭って、再び笑顔を作った。今度はうまく笑えたと思う。 「ふたりとも、心配してくれてありがと」 「いいってことよ」 |