「言っておくれよ。あたしの顔をちゃんと見て、真面目に、…好きだ、って」 両手を後ろに、しいなは上目遣いでゼロスを見た。頬は赤い。ゼロスは踵を返してしいなの正面に立つ。しいなは少し視線を泳がせたが、すぐに定めた。 「…ずっと、おまえのことが好きだった。俺と付き合ってくれないか」 沈黙。その言葉を噛み締めるように、一度目を閉じ、すぐ瞼を持ち上げる。 「…本気?」 「本気」 しばし見つめ合ってから、しいなは溜息をついた。 「…やっぱり、よくわかんない」 「あのな…」 ゼロスはがっくりとうなだれる。 「ここまで言わせておいて、そりゃないぜ…」 「…ごめん」 苦笑いした。ゼロスも溜息をつく。 「ウィステリアの花言葉、知ってるか」 突然の話題の変換に、しいなは瞬きをした。それから首を横に振る。 「…恋に酔う。結構色っぽい花言葉だろ。俺さまは好きだな」 もう離れてしまった藤の花を見た。しいなも振り返って花を見る。 それをチャンスと後ろから抱きしめた。 「ゼロス…」 抵抗はしない。たくましい腕にそっと手を添える。 「おまえに酔いたい」 「…バカ」 髪を結わえているためにあらわになっているうなじに、唇を寄せた。 「あっ…」 思わず漏れた声は、熱を帯びた艶っぽいものだった。 「しいな、好き」 ゼロスはしいなの顔を振り向かせ、顔を近付けた。 「バカ、こんなところで…」 「気にしない気にしない」 いよいよ、唇が重なろうとする瞬間。 がさり。 また違う騎士が赤い顔で固まっていた。 「あっ…あの、そろそろ、出発のお時間で…」 しどろもどろ。しいなは耳まで赤くしてゼロスから離れた。ゼロスの拳がわなわなと震えている。 「邪魔すんじゃねえっ!!」 「ひーっ! すいませんすいません!!」 ゼロスはそのまま騎士を追っていく。赤い頬を押さえて、しいなはもう一度藤の花を見た。 「恋に、酔う…」 触れることのなかった唇に、指で触れてみる。ゼロスの眼差しを思い出して、ふふっと笑みが漏れた。 「酔えるかな、あたしも…」 しいなは上機嫌でキャンプに足を向けた。 end. W&R用の書き下ろし。 甘ーい話にしようかと思ったら、甘くなりすぎました。ゼロしい満載です。少女漫画のようだ…。 キルメルだと甘い話を書いても平気なのに、ゼロしいで甘い話を書くと…………なんだろうか、この胸やけ感() 藤の花は私も大好きです。文中でしいなが語っている通りの理由です。見たことのないかたにはぜひオススメします(笑) |