ガールズトークはコレットが始めることが多い。 「しいなは…胸が大きくていいよね」 髪を泡だらけにして、しいなは固まった。 「そうですね、羨ましいです」 コレットに賛同したプレセアが、しいなの近くに寄ってきた。リフィルは湯舟の中から様子を眺めている。 「あのね…コレットはいつも唐突なんだよ」 シャワーで泡を洗い流す。しいなの黒髪はいつにも増して艶を出す。 銭湯が売りの宿で、再びガールズトークは開催された。 「プレセア、おいで。背中流すよ」 「はい。ありがとうございます」 プレセアはしいなに背中を向けた。石鹸をタオルで泡立てる。ふるふる揺れる胸を、コレットはじーっと見つめていた。 「いいな。柔らかそうで」 「…すっごいやりにくいんだけど」 少し顔が熱くなる。 「胸大きくてもあんまりいいことないよ。邪魔になるし肩は凝るし…」 「贅沢な悩みです」 プレセアの言葉に、しいなは黙らざるをえない。 「バストは大きいしウエストは引き締まってるしヒップは安産型だし、理想的よね」 リフィルがからかう。 「どこが理想的なもんか。胸が大きいのは認めるけど、それ以外はただ筋肉質なだけだよ。脚も太いしさ。コレットみたいに華奢なほうがよっぽど女の子らしいじゃないか」 「でも、私、ぺったんこなんだもん。胸はあったほうが女の子らしいよ」 自分の胸を押さえてコレットが熱く主張する。 「だとすると、リフィルさんが一番均整の取れた身体ということになりますね」 プレセアの意見にリフィルは苦笑する。 「無い物ねだりよね、こればっかりは」 しいなとコレットはお互い譲らず、半ば睨み合っている。 「いいじゃないの、コレットはコレットで、しいなはしいなで。ロイドは女性のプロポーションに文句を言うタイプではないし、ゼロスはしいなのプロポーションに文句はないでしょうし」 「なんであたしに対してゼロスの名前がでてくるんだい!」 しいなは真っ赤な顔で反論する。対するリフィルは涼しげな目のままだ。 「細かいことは気にしないで頂戴。言葉のあやよ」 「気にするよ!」 プレセアの背中の泡を流しながら、しいなは憤慨している。 「私が言いたいのはね、気にしすぎだっていうことよ。自分が思っているほど、周りは気にしてはいないものよ」 引き続き、プレセアの髪紐を解いてその桃色の髪を洗い始めたしいなが、ふう、と溜息をつく。 「そんなもんかね」 「そんなものよ」 髪を洗ってもらい、気持ち良さそうに目を閉じていたプレセアが口を開いた。 「少なくとも、先程のリフィルさんの意見は間違いないと思います。ロイドさんも、ゼロスくんも…もちろんジーニアスもリーガルさんも、気にしてないと思います」 全く気にしてないのも、それはそれで少し悲しい、とコレットは感じる。 「そうね。本人にとっては、つまらなくもくだらなくもないことだというのはわかるわ。でも、そんなことでケンカするのはよしなさい」 徐々に厳しくなるリフィルの言葉に、しいなとコレットは視線を合わせた。 「プ、ププププレセアは髪を下ろしていても可愛いね!」 顔を真っ赤にしたジーニアスに、プレセアは「ありがとうございます」と頭を下げた。 ジーニアスと共にいたリーガルがリフィルに聞く。 「しいなが何か叫んでいたようだが…」 「あら、あなたたちも入ってたの?」 リフィルは質問で返すが、答えを求めているわけではないので、続けて説明しだした。 「たいしたことじゃないわ。ちょっとコレットとしいながね」 「コレットとしいながケンカしてたの? ボクはまた姉さんとしいながケンカしてるのかと思ってたよ」 ジーニアスが姉に顔を向ける。 「原因はなんなの?」 素朴な疑問に、リフィルとプレセアは唇に人差し指を当てる。 「秘密よ」 「秘密です」 ふふっと笑い合う女性ふたりに、ジーニアスは首を傾げる。リーガルはなんとなく察することが出来たので、それ以上は何も聞かなかった。 「しいな、さっきはごめんね」 「あたしのほうこそ、ごめんよ」 リフィルとプレセアに置いて行かれた二人は、並んで歩きながらお互い素直に謝った。 「あ、コレット、しいな」 「ロイド」 声をかけられて、コレットがロイドに駆け寄る。 「そっちも風呂だったんだろ? 一緒に飲み物もらいに行かないか?」 「うん、行く行く!」 コレットは即答で誘いに乗ったが、しいなは遠慮した。 「あたしは部屋に戻ってるよ。髪も乾いてないしね」 何となく疲れている雰囲気のしいなに、ロイドは無理に誘うことはしなかった。 「そうか? ゆっくり休めよ。おやすみ!」 「じゃあ、しいな、また後でね」 |