If... part2




 聞いた話に寄ると、元々の性格は、控えめだが明るく、よく笑いよく泣く少女だったということだ。
 しいなに連れて来られたシルヴァラントからの来訪者は、希望に胸を膨らませ、前向きでいるようだった。少なくとも、見た感じは、だが。
 ロイドとかいう野郎に、しいなとの仲を聞かれた。その会話をしいなが聞いたら殴られるだろうなと思いつつ、適当に答えていると、不意に奴は沈んだ目をした。



「…なあ、もしシルヴァラントとテセアラが逆の立場だったら、ゼロスはどうする?」
 シルヴァラントの神子コレットを見ながらの台詞だった。感覚も感情もない、天使の彼女を見て、だ。
「どうする、っては?」
 意味が広すぎて答えられず、問い返した。ロイドは少し唸る。
「…コレットは自分がああなるって知ってて、天使になったんだ」
「健気だねぇ。惚れちゃいそうだ」
「真面目な話だぞ」
「へいへい」
 言われて、とりあえず真面目に考えてみる。
「…コレットちゃんは、なんで天使になることを望んだか聞いていいか?」
 ロイドは俯いた。唇をぎゅっと噛む。
「苦しんでいる人たちや、世界中の人たちの期待を目の当たりにして、それを裏切ることなんか出来なかったんだ」
「それと、ロイドくんの存在、か」
 ロイドは息を飲んだ。予想通りの反応に、ゼロスは口端を持ち上げる。
 沈黙。
 視線をコレットに移して、沈黙し続けた。ゼロスも急いで発言する意味もないと、しばらくは黙っていた。
 ひとつ、深く溜息をつく。
「質問されといて何だけどよ、自ら望んで天使になったコレットちゃんを、どうして助けようと思ってんだ」
「それは…」
 途切れた言葉を気にせず、ゼロスは黙って答えを待った。
「再生された世界で幸せに生きて下さいって、手紙だけ残して、黙って旅立ったんだ。遺書みたいな内容の手紙だぞ。うまく言えないけど、俺、その時、コレットの傍にいなきゃ、守らなきゃって思ったんだ」
 少しずつ答えながらまとめていく。
「人間としての感覚がなくなっていくのに、全部我慢して…世界が救われたって、コレット自身が救われないんじゃ意味がないって思ったんだ」
 ゼロスは黙って耳を傾けた。
「世界も大切だけど、秤の反対側にはコレットを乗せたくない。もちろん、ゼロスも、テセアラも」
「じゃあ反対側に何を乗せんだ。世の中そんな甘くはないぜ」
 やっと口を開いたゼロスに、ロイドは苦笑いした。
「それがまだわかんないんだよな」
 困ったような顔のロイドに、ゼロスはふっと笑った。
「コレットちゃんは、幸せだなぁ」
 ロイドが顔を上げる。
「そこまで心配してくれる奴がいるんだから」
「……」
 目は閉じ、口元は笑っているが、その横顔から深意を読み取ることは出来なかった。
「でも、しいなもゼロスを助けてくれると思うぞ」
 ゼロスも顔を上げた。
「そうか? 俺さまの声が出なくなったら、うるさくなくってせいせいするんじゃねーの」
「不謹慎だぞ。それに、しいなに対して失礼だ。まさか本気で言ってるのか?」
 かなり強く睨んでくるロイドに、ゼロスは肩をすくめた。
「しいなはそんなやつじゃない。俺に言われなくたってわかってるだろ?」
「わーったわーった。確かに俺さまの失言でした。悪かったよ」
 頭をがしがしと掻きながら詫びる。ロイドは眉間のシワを解いて溜息をついた。
「今の、しいなが聞いてたらすっげー怒ると思うぞ…」
 怒るどころか手が出るだろう。口より先に手が出る癖を、ロイドたちは知っているだろうか?
「わーってるよ。ほんの冗談だ」
「タチが悪すぎるんだよ」
 再び肩をすくめる。
「そんじゃ、しいなに期待するか」
「本人に聞いてみればいいのに」
「聞けるか、バカが」
「どうしてだよ」
「…純情な男心は複雑なんだよ」
 今度は呆れた顔でロイドは溜息をついた。
「そんなんだから、しいなにバカって言われるんだぞ」
「…しいなが俺さまのことを話したのか?」
「俺が聞いたんだ。テセアラの神子ってどんなやつかって。一言だったぞ」
「…なんて?」
「だから、バカだ、って」
「……」
 はああああ、とわざとらしい溜息をつく。
「なんでそこで眉目秀麗、才色兼備で完全無欠なマイダーリン、とか答えてくれないのかね。俺さまのスウィートハニーは」
「懲りろよ」
 ロイドは笑った。

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