(、まただ)



ふわりと鼻先を掠めて下に降りるキス
これが閻魔大王の変なキスの癖

誰が仕込んだのかわからないけれど大王自らしてくるキスはこれが当たり前
冗談のように誰に仕込まれたんですかときいてみても大王は笑っては答えない。鬼男くんだけだよなんてそんな優しい嘘、きっと舌を抜かれてしまいますよ



鬼、という生き物は閻魔大王に仕えるべくして生まれてくる。閻魔大王を唯一の主とし、主のために働き、主を守り、主だけを愛す。いわば人間界における蜂と同じなのだ。僕ら働き蜂は一生女王蜂のために働く。それが幸せだからだ

僕ら鬼も目を覚ました時からはっきりと閻魔大王だけを認識している。今ではあのアホ面に向かってあなたのために生まれてきましたなどとは絶対に言わないが、僕が目を覚ましたその瞬間、僕に目線を合わせ微笑んだ「閻魔大王」がその瞬間の僕の全てだった。だから言った。あなたはぼくがまもります、と。一瞬きょとんとした閻魔大王は噴き出して笑ったけどじゃあ期待しとくね。と微笑んだ



それからもう何百という年月が経ったけれどあなたの横に居る鬼は僕だけで、あなたが呼ぶ鬼の名は僕だけ。何万といる働き蜂の中から女王蜂に選ばれた幸運な僕がこれ以上何を望むのだろうと思うかもしれない。けれど閻魔大王はあなたしかいないけど僕の代わりなんて幾らでもいる。そう言ったらきっとアンタは悲しむから言わないけど。これが現実


「なに考えてるの?」

ほら、また。その鼻先を掠めた唇がどれだけ冷たいか僕しか知らなければいいって何度も願った。アンタに染み付く僕じゃない癖が嘘なら良かった。大王がつく嘘みたいに

「アンタのことですよ」
その言葉に嬉しそうに笑う大王。あなたの為に作られた心臓が脈を打つ。とてもはやく、はやく
その笑顔は一体何人にみせたんですか?そう聞きたいけど胸が苦しくて仕方がない。何故働き蜂がこんなにも強い感情を持ったのか

「鬼男くんのねぇ。優しいキスが好きだなあ」
「、大王のキスは変わってますよね」
「おれ?変かなあ?」

直感。きっとこのキスを教えた奴が大王のはじめての人だ。それが自分の一人前か何十人も前かはわからないが

「鬼男くんとキスできるなら何でもいいよ」

ぐっ、と胸がつまる。指を絡めて深くキス。どうしてはぐらかす?苦しいぐらいアンタが好きなのに。気遣う嘘が更に僕を苦しめる

そんなのいらない
本当のことを言って僕を悲しませてくれたらいいのに


閻魔大王の中で鬼とは何か、鬼男という存在は何か。いつもなら何だって言えるのに聞けないただひとつのこと。「『僕』を愛していますか?」

もしアンタに対するこの感情が鬼としての本能だとか刷り込みだとか、そういうことならそれでもいい。でもそれは「閻魔大王」に対するものであって『アンタ』に対する感情は全部僕だけのものだ。ふざけて怒られて謝るアンタもセーラーばかり集めるアンタも裁判の冷徹なアンタもその後の諦めたように笑うアンタも、すがるように名前を呼ぶアンタも全部僕が愛した『閻魔大王』
閻魔大王を愛するために生まれたんじゃない、アンタを愛するために僕は生まれた。ただそれだけは信じていて欲しい


「愛して、ます」

いきなりで驚いたようにきょとんとする閻魔大王はあの日生まれた時にみたのと全く同じ反応だった

そして全く同じ様に、優しく笑って言った

「俺も鬼男くんを愛してるよ」




狂おしい程に愛していて、だから悲しくて、そして嬉しい





痛いよ
(優しさが?心が?想いが?愛が?)










song by
清 竜人













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