星 の 戯 れ
`I love you' that I could`nt say.
もどかしくて
「ねえ。」
いつも通りの暗い空。昼間、どこかよそよそしかったあの人のことを考えたら、自然と足は裏庭に向かう。
目的の人物がそこにいて安心すると同時に、オレは彼女に自然と声をかけていた。
昼間と同じように揺れるアーモンド色、戸惑うように顔を出した彼女は小さく「こんばんは…」と呟いた。
律儀に挨拶をする様子に少しだけ笑える。もっと近くで顔を見たい。
「そっち、行っていい?」
「え?…いや、だってここ3階…」
「いける。」
以前彼女を運んだときのように、近くにあった木を踏み台にして飛び移る。
いつも彼女がいる小さなバルコニーに立つと、驚いた顔をしている彼女と目が合った。
極力怪しまれないように、回りくどい移り方をしたんだけど、やっぱりまずかったかな。
「もしかして、そうやって飛び移ってここで寝てたわたしのこと運んでくれたの?」
「倒れてるように見えたから。」
「…ゆ、夢じゃなかったんだ。」
しばらくブツブツと口ごもっていたが、すぐに顔を上げて、オレに微笑みかける。
それは昼間見たのとはちょっと違うように見えた。夜だからかもしれない。
「ここ座って。」と促され、彼女の隣に座る。
夜風が気持ちいいと感じると同時に、シャンプーの淡い香りがしてくる。オレがいても彼女はいつも通り空を見つめていた。
「あっ、ほら、あれオリオン座!」
「星、好きなの?」
「うん、星っていうか夜空が好き。」
好きだから、毎夜飽きずに眺めているのだろうか。
それに以前言ってた『眠れない』、とはどういう意味なんだろう。どれもこれも知りたくて、直接問うてみようと口を開きかけると、「あ!」と遮られる。
「そういえば、キミ、支葵くんっていうの?」
「…そうだけど。」
何を今更、と思ったけど、そういえば毎日顔を合わせていても、まともに言葉を交わすのは今日が初めてみたいなもんだ。当然互いの名前も知らない。
その事実にすっかり失念していて、自覚すればやっぱり知りたくてたまらない。
「今日一緒にいた子が教えてくれたんだ。モデルやってるんだってね。すごいなあ。」
「あんたは。」
「え?」
「名前。」
―――どうしてなんだろう。
自分でも戸惑うくらいにオレはこの人間に興味を惹かれる。
一つ知ればもっと知りたくて、埋まらない穴を埋めようと必死になっている。
「苑村清良。今更だけど、よろしくしてくれたら嬉しいな。」
アーモンド色の瞳に俺が映るだけで満たされた気になるなんて、ホント、オレどうかしてる。
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