03.Mind your business.
幼かった四葉から、すぐ上の兄を取りあげたくせに。
「それにしても、四葉さま。まさか、ご自分自身を見てほしいとでも?」
この兄にこんなにも残酷な言葉を突きつけられるのは初めてで、背筋が冷えた。
「そう、それでいいのです」
口調を穏やかに戻した護衛は、ゆるりと微笑む。
「あなたがおとなしくしている限り、あなたは私たちのかわいい弟です」
その言葉に悔し涙が零れたが、護衛は一礼し、去った。
せめてもの情けということか。
ほら、見てみろ耕造。
家族なんて、血縁だけでは決まらないんだ。
耕造を思うと、余計に涙が流れた。
そして四葉は、思い切り泣いた。
*****
扉の脇に気配を消していた兄の顔は、予想通り渋面だった。
常にないほどの兄の苛立ちを感じ、風月は苦笑した。
すると兄はその眉を吊り上げた。
「やりすぎだ」
「ごめん。あまりにもかわいくて」
「あれをこのまま縛り付けるつもりか」
「まさか。だけどね、あれだけ必死な姿を見れるのも、あと少しかと思うとね」
「お前は知らないことになってる」
「わかってる。俺はそんなへまをしない」
「わかってる。そしてお前はへまをするんだ」
ばちりと兄との間に火花が散る。
昔から、優しくてまっすぐで強い兄。
その陰に隠れて世間を窺っていた幼い自分。
そんな自分の手を引いて連れ出してくれたのは、すぐ下の弟。
さらにその下の弟たちは、そんな自分を知らない。
下二人の弟たちには、見せなかった。
今、ここに陸離がいたらと詮無いことを思う。
「はいはい、わかったよ。どうせ俺は兄上には敵わない」
肩を竦めると、兄の瞳が揺れた。
嫌だなあ、困らせたいわけではないのに。
そのとき、年嵩の男とひょろ長い男が姿を現した。
「大空さま」
年嵩の男が控え目に呼ぶ。
風月の前で言うべきかどうか迷っている様子だ。
「いいよ、羽根。俺は外すから」