金平糖は空を泳ぐ4



ネズミはぼくの両手を片手で押さえつけたまま、自分の緩んだネクタイを取る。
「ちょっと、何するんだよ……っ!」
「いたずらしないようにな」
ぼくの両手はネズミのネクタイで縛られてしまった。少し暴れたくらいではちっとも緩みやしない。

「ああ…! んっ」
油断した隙に、ネズミの冷たい手が直接ぼくの熱い欲望に触れる。
「……反応いいな? ここ、ぐちゃぐちゃだぞ。もしかして縛られて感じてんの」
耳元で囁かれる。
「や、言わないで……んああ、あん、……あっ」
「この声先輩聞いちゃったんだ? かわいそうに……きっと先輩、乱れるあんたを想像して一人で抜いてるぞ?」
「なに、あっあっ……ふぁあ、んっんっやら、やめて、」
ぼくの熱芯に添えられる美しい手の動きが激しさを増す。同時に胸を柔らかな舌に弄られる。絶え間なく聞こえる水音すら耳を刺激する。
「あんたの喘ぎ声色っぽいしな? それに、この前撮った写真……」
「んっん、ふぁ、ひゃっ…あん、あ」
「おれ、あの写真で抜いてる」
「っ……あああ!」
欲情した熱っぽい声が耳元で囁かれたとたん、ぼくは達してしまった。


「この前より早くない?」
くっくっと彼は愉快そうに笑った。
「はっ…はぁ、はぁ、…だってきみに耳元で囁かれたり……触られたりすると、気持ちよくて……」
ネズミが両目を見開く。美しい夜明けを思わせる灰色の眼が驚きに満ちている。
「……あんたそれ、天然? それとも誘ってる?」
「え?」
「天然だろうな、あんたの場合」
そう言って、ネズミは手の平についたぼくの精液をぺろりと舐め上げた。
「!? なにしてるの、ネズミ! やめて、汚いよ! それにこれ解いてったら」
「おれ、あんたが嫌がっていたり恥ずかしがっていたりする顔を見たい」
彼はにっこり笑って、ぼくの身体を反転させてうつ伏せ状態にする。もちろん両手は拘束されたまま。
「まさかこれで終わりだなんて思うなよ?」
訳も分からぬまま、ズボンと下着を一気に脱がされる。

「な、なにするんだ!」
「おいおい、あんただって分かっていただろう。こうなることぐらい」
「分からないよ!」
「わざわざ家に誘ったんだ、下心あるに決まっているだろう」
まる出しにされた臀部をネズミが両手で揉む。
「ひゃんっ…」
「可愛い声……そういえばこの前、街中でもおっさんに尻揉まれてたな、あんた」
そう言うと、ネズミはガブリとぼくの臀部に噛みついた。
「っ痛い! 今噛んだだろう!?」
「綺麗に歯型がつきましたよ、陛下」
うつ伏せにされているので、背後でネズミが何をしているのか見えない。
「ほら、おしゃべりはここまでだ。尻を高くあげて、ほら」
「っ……いやだ!!!! やめてよ、恥ずかしいよ!!!!」
ネズミに無理やり、四つん這いの状態で尻だけ高くあげた屈辱的な格好をさせられる。これでは後ろのネズミになにもかも見えてしまっている。


「いやだぁ……」
羞恥に耐え切れなくなり、涙がポロポロ溢れる。シーツにどんどん涙が染み込む。
「ほぐすから」
その言葉のすぐ後に、とろりとした冷たい液体のようなものが尻に垂らされる。
「え……? ひゃっなに!? 冷た……! なにそれっ……」
「なにってローション」
なぜ男子高校生の寝室にそんなものが常備されているのだ。
そこまで考えてハッとする。


以前、ネズミはここで使ったことがあるのだ。誰かを寝室に招いて、そしてその誰かとこのような行為をしたのだ。
誰と……? それはネズミの愛する人?
いつ……? 昨日?

もやもやする。嫌だ、ネズミが自分以外の誰かとこんなことをしているなんて……嫌だ。


「うあぁっ」
ネズミの指が自分の中に侵入してくるのを感じた。異物感に体が震える。
「やっぱりきついな……」
「やだ、なんか変……! 抜いてぇ……やめて……」
「ほぐさないと後でつらいのはあんただ」
昂ぶってくる身体とは反対に、冷静になっていく脳内。
「ふっ……うう……やだ、ぬいてよぉ……」
泣きながら、歯を食いしばる。ネズミはぼくのことなどお構いなしに、ゆるやかに抜き差しを始める。


どれくらいそうしていただろうか。
気が付けばぼくの秘所はネズミの指を3本も銜え込んでいた。
「…………」
「あっ…あぁ、ん、あっ、はぁっやっ」
ぐちゅぐちゅと、水音が絶えずぼくの耳まで届く。気が付けば、ぼくは異物でしかなかった彼の指で快感を拾うようになっていた。
ネズミは無言、ぼくのはしたない声と水音だけが部屋に響く。ネズミは黙ったままで表情も伺い知れないが、彼の施しは熱く優しかった。

ふいにネズミの指が奥まで入り込む。今まで指の根元まで入れていなかったことに気づく。
ぼくの孔内を探るように進む指先が、ある一点を掠める。
「は、…あっ、ああああん!」
より大きな喘ぎ声と共に、身体がビクンと反応する。
「な、なに今の……」
自分自身が信じられない。
「ここか」
そう言って、ネズミはしつこくそこばかりを攻め立てる。
「ああああ! だめ、そ、こ…だめぇ!!!!あっあっ、」
「さっきより悦い声で鳴くじゃないか。そろそろイイか?」
「あっ…!」
ネズミの指がズチュッと音を立てて、引き抜かれた。
自由にならぬ身でなんとか酸素を取り込もうとはぁはぁ、と肩で息をする。
後ろからカチャカチャとベルトを外す音がした。
「ま、待って」
「この後に及んで? 待つわけないだろう」
「この体勢が嫌なんだ、頼むからきみの顔が見えるようにして……!」

精一杯の懇願。
ネズミは無言のまま、力があまり入らないぼくの身体を反転させた。今度は仰向けに寝かされる。
灰色の双眸がぼくを見下ろしている。
「……あんまり煽るなよ。こっちだって余裕ないから」
ネズミが熱っぽく笑う。もしかして、ネズミは欲情しているのだろうか。ぼくの身体で、興奮してくれているのだろうか。そうだったら嬉しいのに。
視線を下に泳がせると、すっかり熱く固く反応しているネズミの欲望が視界に入り込む。
「きみもそうなるんだ……」
顔を赤らめつつ思いつくまま感想を述べると、
「あんた、おれをなんだと思ってるわけ? あんたがおれをこうさせてるんだからな。責任とれよ」
とネズミはじとり、とぼくをねめつけた。

「まさかと思うけど……それ……」
「あんたのここに入れる」
「む、無理だ! そんな大きいの入る訳がない!」
ぼくは青ざめて首を左右に振る。
「入るさ。大丈夫、紫苑。おれに身をまかせて?」
甘い声音で誘われる。ちゅっちゅっと顔中にキスの雨。まるで恋人同士の情事のようではないか。


「……うう……いやぁ」
すぐ近くでネズミの匂いがする。
「足、開いて? そう、もっと。恥ずかしがるなよ、もう全部見たんだから」
ネズミの目の前で、再びあられもない恰好を晒す。羞恥のあまり唇を噛みしめる。
「入れるぞ」
短い言葉のあとに、ネズミの熱く滾った熱を秘所に感じる。次いで裂けるような痛みがぼくを貫く。
「痛……っ!!!! うう、はっ、痛いぃ……無理っ…」
「紫苑、大丈夫か? もう少しだから力抜いて?」
「痛い、痛いよ、ネズミ……! うう」
「はっあ、全部入ったぞ?」
「ああ、うっ……はうぅ……」
ネズミの呼吸も荒い。


今、ぼくは、ネズミと一つになっているのだ。どうしようもなく嬉しいような、悲しいような。
ネズミの心はぼくのものではないけれど、今だけは、今だけはネズミはぼくのものだ。
この痛みも熱も全部ぼくのもの。
きみが好き。もっとぐちゃぐちゃにして欲しい。
繋がっている部分から溶けて、ぼくの想いがきみまで届けばいいのに。


「……なに犯されて笑ってるんだよ、紫苑」
律動が開始される。水音と激しく肉を打つ音が響く。そしてぼくの声も。
「っあっああ、! いきなり、動い…、ちゃ、あ…っ! はあ、んんっあっ」
お願いだ、ネズミ。
今だけはぼくだけを見ていて。浅ましくて情けないぼくを受け入れて。
それくらい願ったっていいだろう?


「あんた、……尻だけでイケるかもな?」
「もう……好きなようにして……っよ! あっう、はあっ」
「お望みどおりに……」
ネズミの律動がまた激しくなる。
「んんんっ……あっあ゛あぁっ…!!」
「くぅっ……」
何も考えられなくなると同時に、体内に熱が広がった。
(ああ……ネズミの精子が中に……)
ぼくも達してしまったようで、自分の腹の上には白濁した液体が飛び散っている。


ぼくの両目からは絶え間なく涙が流れ続けている。止めようにも止まらない。
そのままぼんやりとシミ1つない天井を見上げる。
ぼくはいったい何をしているのだろう。心は虚しくなるばかりだった。



「しおん、」
ネズミが泣きそうな顔でぼくの顔を上から覗き込む。

どうしたの、ネズミ。

「紫苑、紫苑、紫苑」
胸が締め付けられるような悲しい声で、ネズミはぐったりとしたぼくの身体を掻き抱く。

痛いよ、ネズミ。

「紫苑……っ!」


ぼくの涙は相変わらず止まらない。
ネクタイで纏められた両手はいまだに自由にならない。


ネズミの顔は見えない。彼は今、どんな表情で何を想ってぼくを抱きしめているのだろう。
ぼくはただの性欲処理の相手なのだろうか。ぼくを抱きしめながら、他の誰か心から欲する相手を思い浮かべているのだろうか。



(ああ 両手が自由なら きみの素肌に爪を立てて 他の人を考えるきみに痕を残すのに)




きみに愛されたいな。










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