シャークさんに水着の好みを聞く

(匿名様リクエスト)




「よう凌牙ァ! ちょっと聞かせてくれや!!」

ばぁん、とノックなしにそいつはドアを開け放った。廊下の生温い空気が冷えた部屋に流れ込む。俺は顔を顰めて闖入者を見上げた。

「…何しに来た」

一応、どういうわけだか、何をまかり間違ったか、俺の恋人という立ち位置にいるそいつは、にこにこと愛想よく笑いながら「聞きたい事があって来た!」と元気に答えた。
溜息を吐き、手を振る。悲しいかな璃緒と同じぐらいには俺の挙動を読み取ってくれるそいつははっと思い出したように、緩やかにドアを閉めた。さっきもそれぐらいゆっくり開けてほしかった。

「…で、何だ。その聞きたい事ってのは」

無遠慮にずかずかと俺の正面に座ったそいつはやはり上機嫌に笑顔を浮かべながら、一つ頷いた。

「うん。最近暑いだろ、海かプールにでも行きたいと思ってさ」
「…だから?」
「凌牙の水着の好みを聞きに来た!」

盛大に溜息を吐いて頭を抱えた。―――頭が痛い。
海やプールに行きたいのはわかる。水を浴びると少しは気も晴れる。だが水着については、正直に言うと「どうでもいい」。

「…お前の好きに選べよ」
「はぁ? 何馬鹿な事言ってんの。アタシは凌牙の好みを聞きに来たっつったでしょうが」
「どうでもいい」
「…傷ついた」

そっと伏し目がちに顔を背けたそいつの様子は、なるほど多少は心にくるものがある。しかしその態度が必ずしも内心と合致しない事を知っている俺は「ハッ」と文字通り一笑に付した。

「そりゃ悪かったな」
「あ、そう思うなら好きなもの教えてよ」

予想通り、こいつはぱっと顔を上げて爛々と猛獣のように光る目で俺に詰め寄った。その顔を押しのけながら、恐らく答えない限りは解放されないだろうと予想する。

「鮫かペンギン」
「つまり凌牙か璃緒か。オーケー、わかりやすい回答をありがとう! じゃーまた連絡する!」

俺の扱いに文句の一つも言わない「できた」彼女であるそいつは、ぬるりと俺の手から抜けて部屋を出て行った。騒がしさだけで体感温度を上げていった一応恋人であるそいつを見送るなどという殊勝さは俺にはなく、代わりに豪快に開け放たれていったドアを苛立ちながら閉めた。
まさか即日で連絡がくるなどとは知らない俺は、嵐の後の静けさに耽りながらデッキを広げた。

2015/07/28

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