世界とは不潔である。 あなたがそう声高らかに言ったから、わたしはそうだと賛同した。 女とは不潔である。 あなたがそう声高らかに言ったから、わたしはそうだと賛同した。 女とは不潔である。 だからこそ、女とは使い道がある。 あなたがそう声高らかに言ったから、わたしはそうだと賛同した。 世界救済という壮大にして必要であるあなたの意志を汲み、わたしは、女であろうと決めた。 女であることを嫌い、女であることを憎み、そして、何より女であることを酷使してきた。 ときに脂ぎった国の権力者に抱かれ、ときに腐臭漂う名ばかりの賢人に抱かれ、ときにあなたの賛同者だという何者かに抱かれ、そうしてあなたを支えてきた。 つもり、ではない。 確実に、わたしの行いはあなたの支えとなっていたのだ。 確かに世界は不潔であった。 全ては穢れに満ち満ちており、綺麗なものなど、何一つとして、この目には映らなかった。 「どうだ、世界とは如何に不潔であることか」 「そうね」 「お前にならわかるだろう」 「ええ、わかるわ」 あなたは満足げに笑った。 それにわたしも満足していた。 なのに、いつからだろう。 あなたがわからなくなった。 あなたは確実に世界救済という目的を達成しつつある。 いつの間にか上り詰めたその地位で、その目的を、いや、その先でさえも掴みそうな勢いだ。 「もう少しだ」 「ええ」 「もう少しで、世界は救われようとしているのだ」 「ええ……」 世界は浄化されていった。 少なくとも、世論はそう騒ぎ立てている。 世論は不潔ではなくなってきていた。 少なくとも、賛同する者達はそう口にしていた。 そうしてようやく目的が達成されるであろうとき、あなたはわたしに、こう言った。 「仕上げだよ、世界はこれで救われる」 「え、」 ぱんっ、と乾いた音がした。 ああ銃声か、と思ったかどうか。 わたしの声は、あなたに届かない。 _20101103 わたしの声が枯れてゆく © 楽観的木曜日の女 |