わたしはずっと容姿を褒め讃えられて生きてきました。よって、醜きは人に非ずと純粋に思い生きてきました。
 それは単純にそうであると思っていたまでで、醜いからといって侮辱侮蔑をするわけではありません。ただ、人ではないと思っていただけです。
 ある日のこと、表参道をふらりとウィンドウショッピングしていたなら、いつものようにキャッチに遇いました。

「お姉さんすごく綺麗だね。うちの事務所見学に来ない?」
「結構です」
「お姉さんすごく綺麗だね。俺のカットモデルやらない?」
「結構です」
「お姉さんすごく綺麗だね。ちょっと雑誌の写真撮らせてくれないかな?」
「結構です」

 いつものようにそれらを躱し、羨望の眼差しが向けられるのもまたいつものこと。それなのに心はどこか空ろで、これといった商品も見当たりません。高級ブランドの元彼にもらったパンプスを鳴らしながら、はあ、と溜め息が口を突きました。……そういえばわたしは、何故、元彼と別れたのだっけ?
 ふと目をやった先の店内では、楽しげな男女が指輪を眺めていました。わたしは愕然とします。
 ──そこは高級ブランドでダイヤモンドカットは世界一と謳われるアクセサリーショップ。ここの指輪をプレゼントされることは女として、至上の喜びであるとさえ言われるほどです。なのに、なのに、そこで談笑し薬指でサイズを確認する彼女は、いわゆるわたしの中での人ではないものでした。
 彼女が、ここで?ここで指輪をもらうと?あの彼に、端から見ても素敵である彼に、あの指輪をもらうと?
 ウィンドウに釘付けなまま、彼らの唇の動きを必死に追うわたしがいました。

『どう?サイズは』
『ぴったりよ』
『じゃあそれにしようか。気に入った?』
『それはもちろんだけど……こんな高いもの、何だか悪いわ』

 そうでしょうとも。彼女にそれは似合わないはずです。人ではない彼女には。
 わかっていても、わたしは目を離せませんでした。

『似合うよ』
『……そうかしら』
『当たり前だよ。君にはそれだけの価値があるんだから』

 価値がある。
 がつんと頭を殴られたような衝撃に襲われました。価値がある、彼はそう彼女に言ったのです。人ではない彼女に、価値があると。

「……ああ、そうだった」

 元彼はこう言ったのです──『お前って容姿だけなのな』。
 わたしの美しさは、まさに、それだけなのでしょう。彼にもらった高級ブランドのパンプスが、初めて、不似合いであると思いました。





_20110205

美しい人



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© 楽観的木曜日の女