act. 5-1



完全に御手上げ状態に気力負けしてる私はソファー上で干物になる。クッションに顔を埋めても瞼の裏で浮かぶ彼の顔に、ちくちくと針で心臓を突かれる感覚が鬱陶しい。
彼という人間(?)が分からない。いつもいつも冷酷な顔で感情無なのに、ふと何処か痛んだ様な顔を垣間見せる。ズルいとも思う。そんなのチラつかせるから放って置けないんだもん。
――――――でも、もう気がついてしまった。振り向かせても跳ね除けられて背を向けてしまう彼に、“どうして ”と突っ掛かるのは無謀なのだと。


「ぅう、ううぅ」
「おーい名前ッ………痛!」

バタつかせていた足が何かに当たった。

「あ!ごめん、ブレイカー」
「何独りであばれてるんだ…?」

甲冑を装備してないブレイカーが脛を押さえて呻いている。この前、家にいる時くらい鎧とか武器とか外しときなよと言ったのが裏目に出た。


「ねぇ ガールの様子、どうだった?」
「アイツはもう立ち直ってるっぽい。心配ない」
「そっか」
「まぁ、それよりだ。  お前、またアイツと火花散らしたんだろ」

アイツ、即ちブラックカオスと、微妙な関係になった事を話した。

「今度こそ、本当に来てくれなくなるかも」

私の辛気臭い顔に適度な配慮き浮かんでなさそうなブレイカーは、居心地が悪い様ように髪をぽりぽりと掻いて黙る。これだけでも周りに迷惑を掛けてると自覚が働く。同情の言葉を欲しいとかではないけど、滅入る気持ちを打破できない。私が視線を床に下げても滞りなく続く沈黙に息が詰まったのか、ブレイカーは言った。



「じゃ、お前が来れば?」
「!?」

その 今思い付いたから言ってみた、みたいな言葉に困惑する。来るって……

「そっちの世界に!?」
「俺等が此方に来れんだ。お前ならあっちの世界も行けるんじゃないか」

そ、そんな簡単になせるの事なの?世界の色々な秩序や掟を破ってしまいそうで怖い。現在の私も尋常ではないんだけど……私がそっちへ行くのは訳が違うでしょう。
ブレイカーは私の躊躇いを余所に、ディスクの前に立って手を翳すとブレイカーのカードは輝き始めた。

「どうする?」

促されて更に戸惑いが激しくなる。帰れる……よね、とかそんな心配してる場合じゃない。ブラックカオスに会って、 ちゃんと謝らなきゃ。私は腹を括って頷いてブレイカーの腕にしっかりと捕まった。「行くぞ」と言った途端、体感した事の無い特殊な重力にぐんっと引かれ、カードの絵柄枠に引き込まれていった。

う…っわ、頭がクラクラす――――、





     * * *







「う、うわー…!」
「ほら、来れただろ。ここが魔法都市、エンディミオンだ」
「すごい……私、あの世界にいるんだ……」

ぐらつく視界を何とか固定しようとする眼で仰ぐ天には、日本語ではない文字が蒼い空に発光して並びゆっくりと回ってる。彼方とはまるで違う不思議が繁栄しま世界は、私をアリスの気分にさせて不安と興奮を沸き立たせた。

「あんまり目立つなよ。人間を此方に連れてくる事なんて、あり得ない話なんだからな…」
「いた!おいブレイカー!」
「げっ、ディフェンダー…」

前方からガシャガシャと鎧ならして走ってきたのは、私の記憶が正しければブレイカーと同じ魔法使い属の星4モンスターの魔導剣士ディフェンダー、だったはず。ブレイカーは直ぐ様私を庇うように胸を張った。

「前に貸した魔術書を返却してもらっていない。お前はどうしてそう物をちゃんと管理しないんだ。貸す時に言っただろう。借りるなら……」
「わかったから落ち着けって」

振り向いたブレイカーが私の背まで屈む。

「悪い。後は一人で頼む」
「ええっ!?」
「アイツは多分、魔法図書館にいると思うから」

それだけ言うとブレイカーはディフェンダーに引きずられ何処かへ行ってしまった。
さっき目立つなよって言ったのに!私、私服だから思いっきり浮いてるよ!ああもうどうしよう。行き交う魔法使い達が私を見て過ぎ去るし、これは人間が紛れ込んだとバレるのも時間の問題だ。早く目的のブラックカオスを探さないと。さっきブレイカーはアイツは魔法図書館に居るって言ってたな……ってか、魔法図書館って……何処?




「お姉さん、どうしたの?」
「はい! ……」

あれ?びっくりして肩上がったけど……可愛らしい声だ。そーっと背後を見ると、ピンク毛の女の子が私を無垢な眼で見上げていた。
この子知ってる、アイドルカードとしても名が高い魔女のピケルだ!

「こ、こんにちは」
「変な服装ね。他のフィールドから来たの?」

ピケルの後ろからクランが顔を出しじっと訝しげに見詰めてくる。こうして間近で見るとピケルがロリータでクランがゴスロリ、と対峙が取れてて本当に可愛い。

「まさか、迷子になってるとか?」
「そうなの? 何処かへ行きたいのなら、わたし達が案内をしてあげるよ」

案内してもらいたのは山々なんだけど、あまり此方の住民達にお世話になってはいけない気が、汗ばむ胸の内でした。人間ってバレたら危ういんじゃないの、ここの都市の市長的な存在であろうエンディミオンから処罰を下されかねないんじゃないの。

「―――あ!」

しかしたった今、案内の必要がなくなった。





「ブラックカオス!!」

こんなに早く会えるとは思ってなかった。この所業は流石のブラックカオスも吃驚を露にする。

「ブラックカオスさん、このお姉さんとお知り合いなんですか?」
「いや」

ピケルの問いに即座に嘯いて早々とお暇するブラックカオスを呼び止めようとしたら、クランに「待って!」と手を取られた。クランは迫真の顔になってる私に耳打ちする。

「関わらない方がいいよ。あの魔法使いに関わったらみんな魔法薬の材料にされちゃうって聞いたことあるもの」
「!」
「こら、失礼でしょクランっ。確かに怖いけど、そんな変な噂信じちゃダメだよ」

ピケルがクランのウサ耳帽子を引っ張る。

「……ブラックカオスはそんな酷い事しないよ。たぶん」
「「……」」

二人はキョトンとして喧嘩寸前の身動きを止める。 たぶんを付けなきゃいけない自信のなさに少し悲しくなる。でも信じてる、彼は悪いモンスターじゃないと。

「やっぱり、お二方はお知り合いなんだね」
「うん」
「大切な関係とか?」
「うん。 大切な仲間だよ」

今一決まりが悪いのか、頬を丸く膨らませるクランは可愛くていつまでも見て居たいけど、そんな猶予もない。二人に手を振って黒髪を揺らす背中を追いかけた。これ、走らないと見失うパターンだ。
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