act. 4-2


「何しに来た」
「ぜー ぜーっ、……貴方が、来でぐれないど、思っだから」
「帰れ」

なんとか間に合ったと思えば、やっぱりカチンとくる彼の態度。だめだめ、今日は口喧嘩するために世界線を越えてきたわけじゃないんだから、ここは我慢だ。いつか立ち読みにした『恰好いい大人の条件』にも書いてあった。相手より大人な考えで如才なく振る舞う事、って。

「………」

ブラックカオスは私を見て立ち止まる。

「な、何か」
「……」

何事もなかったように私を置いて歩き出した。ブレイカーもいないし、街に立ってたら目立っちゃうし、あっちの世界に帰れなくなるから私はこのままブラックカオスと同行するしかない。
勝手に背後を追って歩き人通りの少ない細道を抜けて大通りに出ると大きな建物に到着した。中へ入ると見覚えがあったので直ぐ此処は魔法図書館だと気付いた。ビルのように高い書棚には何万冊もあるであろう本が収められていて飛び交ってる。ブラックカオスは本を引き抜き手に抱え込んだ。

「手伝おうか?」
「邪魔しかしないだろう」
「しないです」
「現にその口で私の作業を妨げている」

そうは言ってもブラックカオスは本棚から目を反らさず本の背表紙を流すように見据えてる。隅から隅まで見てるけど手が本に伸びないのは、目当ての本がないからかな。えっと、ブラックカオスの持ってる本の関連から考えて……

「これ?」

私の足元の段にあった本を引き抜いて渡した。ブラックカオスは無言で受け取った。









彼は完全に私を放置プレイする事にしてる。私が彼の家について行っても、毒舌の一つも吐かない。
魔法で浮かせてる借りてきた大量の本を机に置かれるのを見て、魔法って本当に便利だなとしみじみ感じる。ブラックカオスは一冊の本を開いて紙に魔法陣らしき物を手練たペン使いで描き始めた。ブラックカオスの事だから部屋とか綺麗にしてるかと思ったけど、案外古典的な魔法使いの屋敷に住んでた。屋根とかすごい煤けてる。台風とかきたらふっ飛んでっちゃいそうだ。

その時、私が腰かけている椅子の隣、山にされてる本ががぼこぼこと動き出した。崩れ落ちた本の間から覗いたのは茶色い毛と丸い目だった。

「クリボー!」
「クリ?」

埃まみれのクリボーを抱き上げる。

「このクリボー飼ってるの?」
「棲み着いているだけだ」

飼い主なしのクリボーにしては人なつっこい。それでいて可愛い。流石マスコットキャラ。フサフサの毛を慈しんでいると、クリボーは私の手をすり抜けてブラックカオスの方へ跳び跳ねた。

「あっちと戯れてろ」

顔の合わせを拒んでクリボーの頭を鷲掴みにして私に投げた。クリボーは大きな目を半分にしてしょぼくれる。
私は、クリボーが埋まってた本の中から一冊を引き抜き中を開いてみた。当然の如く理解不能な文字ばかり並んでるだけだった。

「! 勝手に触れるな」
「復縁魔法とかないか見てたの」
「最初から私とお前の間に、縁などなっただろう」

手を止めず、ただ鼻でふんと笑った。

「違うよ。ブラックカオスとガールの」
「…………」

筆圧の音がピタリと止む。

「私とあいつがいつ縁切をした」
「ブラックカオスは言葉がきつすぎるよ。仲間に強くなってほしいって言いたいだけなのだろうけど、ブラックカオスがいうと相手を中傷になってる」
「私なりの教育方針だ」
「それなら……、………………」





「一体何だ、今日の貴様は」
「え?」
「いつもの負けん気はどうした」

顔をあげるとブラックカオスはこちらを見てた。今日はいつもより表情が少しだけ柔らかい。そんな些細な違いさえ分かる程、ブラックカオスの表情の数を把握仕切っているのかな私は。


「今日は謝りに来たの」
「……今更何を」

本題をここで言うとは私自信も遅いと思った。私はブラックカオスより少し手前の席に移った。ブラックカオスは何も言わなかった。握った手に圧力をかけていろんな感情を押さえ込む。

「ブラックカオスが何か言いたくない事を抱えてるのは分かった。それらを聞いて下部を支えてあげるのが主の役目かと思ってたけど、間違ってた。だから、もう無理強いしない。
………………ごめんね」

視線を拳か彼の方にちらっと向けると、とっくに作業をしてると思っていたブラックカオスが、ちゃんと私を見ていてくれた。切羽詰まった胸が、力んだ掌より圧縮して深く脈を刻む。



「貴方から言ってくれるその日を私は待つことにする」

その日がいつ訪れるか分からないけど、相手を尊重して気持ちを待つのも大事と気が付いたから。

「代わりにね、仲間を大切にしてほしいな」
「……ふん」

再び本に視線を戻して鼻であしらったりはしたが、承諾してくれたように見えた。

「私はいつでも悩みごととか歓迎してるから、遠慮なく相談してね!」
(根本的な所は前と変わらないのか)






  

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