act. 8-1


明後日の大会を控えている私達は、ここ毎日カードショップへ身を運んでいる。
今日の昼間カードショップに出かけた時、いつもの格好では若干肌寒く感じた。あんなにうるさかった蝉の声も耳にしなくなって夏が終わったのだと実感する。向寒していく途中には、何かと体に疲れが溜まる秋がある。そんな秋だけど私は嫌いではない。


下部達があちらの世界に帰ってから3時間経った、夜の12時。この時間までリビングで月刊デュエルを読んでいた私は、お風呂へ入ろうと廊下に出た。その時だ。背中にぞわりと寒気が走ったのは。
季節の変わり目は決まって風邪を引く質なのだけれど、今のはそういった風流なものではなかった。悪寒、と言った方が適切かもしれない。
私は、そんなはずがない、と自分に強く言い聞かせた。だって私は“そういう系”には半信半疑な人間なんだ。自己暗示でそう思わないとこんな冷たい廊下を歩けない。二階へ向かって服を取りにいかなくちゃお風呂に入れない、のだけれど、階段も暗くて登る気を失せさせた。




なんとか階段を登って下を覗くと、階段もとで、俄かには信じ難い景行を目にしてしまった。体温と室温のどちらが下がったのかは分からない。秋を通り越して冬を肌身で感じた。

「〜〜〜!!!」



私は転げまわるように自分の部屋に言ってブラックカオスのカードをディスクに置いた。とっさに引いたカードが彼だ、本当に。

「なんだこんな夜中に」
「ブ、ブ、ブラックカオスッ」
「――?」

この前、急な喚び出しは好かんと言っていたブラックカオスだけど、たぶん顔色が悪いであろう私を見ると、何かあったと悟ってくれた。

「さ、さっき見たの、見間違いかもしれないけど、あれを、あれは見間違いとは思えない!」
「落ち着け。主語を使わんか」

潜った布団越しから苛立ったブラックカオスの声が聞こえ、布団から顔だけを出す。どきばくと鳴る心臓を整えるように、ゆっくりと先刻の万端を話した。
―――先刻見たのは招き猫だ。なぜそれだけでここまで狼狽えてるかって、浮遊していたの。あの招き猫は、この家の玄関に置いてある約2キロ置物だ。その招き猫が洗面所方面へ浮遊して階段元を横切るありさまを、はっきりみてしまったんだ。



「まさか、おばけの仕業…? そんなまさか」
「何を言っている」
「いやだって、先刻のは……」
「我らモンスターが存在するのだから霊魂や怨霊も存在するにきまってるだろう」
「で、ですよねー」

そう考えると、霊魂や怨霊が居ない方が不自然なのかもしれないと認めたくないけど納得した。あれは粉うことなき、ポルターガイストだ。


「ブラックカオス、一緒についてきてくれない…かな。でないと風呂にはいれない…!」
「私は霊媒師ではないが?」

そう睨まれたけど、私を置いて部屋を出て出た。あちらの世界に帰らないということは、一緒について来てくれるのかな。
何だか……拍子抜け。いつもならきっと『知らん。私の管轄外だ』とか言って帰っちゃうと思うのに。(それを私は必死に止めて縋りつくであろう物に)ともかく一人になりたくない私も部屋を出て階段を伺っているブラックカオスで一緒になる。―――今の階段とその元に変わった様子はようだ。



しかし、ドアが開けっぱなしのリビングまで進むと、電気でもわかる程に不特定多数の物が浮遊しているのが見える。私は脚の力を保つのに必死だった。 ブラックカオスが電気をつけると浮遊しているものたちが一気に重力を得て床に音を立てた。
するとブラックカオスは躊躇いなくリビングに入出する。今ので、収まったのかな?
私は信号を渡るときよりはるかに慎重を以て左右を確認した後に入った。

しかし、飛んでくる物に私は気づけていなかった。

「!!」

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