鈴木さんから逃げる様に自分マンションまで走っていって、自分の気持ちに気付いた私は、玄関のドアにもたれかかってスマホを弄ってる仙道さんの姿が見えて思わず足を止めた。私が足を止めた瞬間に、仙道さんがスマホから静かに私に視線を移していって『何、してんのよ...』なんて私が口を開くと、仙道さんが困った様に眉を寄せながら「花子ちゃんのこと、待ってた」と、いつもよりも低い声でそう呟いた。




「待ってたって...なんで...』


「なんで、はこっちの台詞だよ。花子ちゃん、何してんの?」


『何って...』


「俺、牧さんを好きでいても良いとは言ったけど、他の男に抱かれて良い。なんて言ってないよ?」


『なんで仙道さんがそんな事、言うの...』





私の事、好きでもないくせに。彼女がいるくせに。なんで私の家の前にいて、そんな顔で私のことを見つめるの?なんて自惚れる様な言葉は私の口からは出てこなくて、先ほどから流れていた涙が、余計に溢れ出ていく。「泣いてるの?」なんて、私の涙に気づいたみたいに仙道さんが私に近寄ってきて、私は思わず仙道さんから顔を逸らした。『泣いてないわよ』と、口を尖らせながらそのまま仙道さんの前を横切っていって、玄関の鍵を開けてドアを開くと、仙道さんが玄関のドアに手を当てる。そのせいで、ちょっとしか開かない玄関のドアがやけに重くて『何?』と、仙道さんを見ずに言う私に「俺、怒ってんだけど」なんて本当に怒ってるみたいな声色に私は眉を寄せていく。





『なんなの?』


「花子ちゃんと、話がしたいだけ」


『話って?何を?あんたと話すことなんて、何もないわ』


「俺はあるよ。まず、鈴木さんと仕事終わりにどこ行ってたの?それに、なんで泣いてんの?後、」






「俺のこと嫌いって言った時、なんで花子ちゃんが悲しそうな顔したの?」なんて、私を追い詰めるみたいに仙道さんがどんどん質問してきて、私はギュッと下唇を噛んだ。そのまま私の腕が仙道さんに掴まれていって、私は涙で濡れた視界で仙道さんに視線を向ける。『わかった...答えてあげる。鈴木さんとは飲みにいった。その後は想像に任せるし、泣いてる理由なんてあなたに関係ない。それに嫌いって言ったのは、私の...』本心よ。と、続けて言うはずの言葉が、私の口からは出てこなかった。だって私は、自分の気持ちに気づいてしまったから。仙道さんのことが、好きだって。酔ってふわふわしてる頭で考えたって、次に何を言って良いかなんてわからない。このまま好きって言ったって、仙道さんには高木さんって彼女がいるし、振られるのなんか目に見えてるはずなのに、何で仙道さんは私に期待させる様なことするの?どんどん苦しくなってく胸が、余計に私の胸を締め付けていって、喉の奥がキュッと締まる気がした。






「鈴木さんに、抱かれたの?」


『だから、仙道さんには関係ないって...言ってるでしょ』


「なんで?好きな子が自分以外に抱かれるの...すげー嫌なんだけど」


『...え?』






仙道さんが何を言ってるのか、全然わからなかった。だって、彼女が、いるんじゃないの?好きな子って、誰のこと?なんて頭で考えて出てくる言葉が、自分でも理解できなくて、馬鹿みたいに自惚れていく私の視界が余計に滲んでいく。『何よ、それ...』と、ポロポロ頬を伝っていく私の涙が、何故だか胸をちくりと痛めていって、『高木さんと、付き合ってるんでしょ?』なんて口から自然と出た自分の言葉にハッとしながら私は自分の手で口を押さえた。






「...は?何それ?」


『何でもない...』


「何でもないわけない。俺は誰とも付き合ってないし、俺が好きなのは」






「花子ちゃんだよ」なんて、仙道さんが私の腕を掴む手に力を込めていって、私の胸がどんどん熱くなっていく。『嘘つき』と、仙道さんの言葉が信じられない私の口から自然と漏れ出ていく言葉に、仙道さんが「嘘つきなのは花子ちゃんの方でしょ」なんて仙道さんが私の唇を奪っていくのと同時に、玄関のドアがどんどん開いていって、私と仙道さんはなだれ込む様にして私の家に入っていく。「俺のこと、本当に嫌いなの?」と、離れた口から仙道さんが呟いて、私は思わず視線を逸らした。本当に、私の事が好きなの?それに、牧さんのことがまだ好き、なんて言った癖に仙道さんのことがやっぱり好きだなんて、ムシが良すぎない?素直になっても、傷つかない?なんて考えながらギュッと目を瞑っていくと、仙道さんが私の掴んだ腕を引いて、私を抱き寄せるみたいに背中に腕を回していく。私はその腕を振り払えなくて、仙道さんのスーツのジャケットをギュッと小さく掴んだ。そのことに気づいたみたいに「花子ちゃん、俺のこと嫌い?」なんて、さらに問いかけてくる仙道さんの言葉に、覚悟を決めたみたいに『好き』と小さく呟いた。仙道さんはバッと抱き締めた私を引き剥がすと、「え?」なんて驚いた顔をして私を見つめる。私は恥ずかしくなって、仙道さんから視線を外すと「本当に、俺のこと好きなの?」と、仙道さんは確認するみたいに私の顔を覗き込んでいく。私はまた好き、だなんて恥ずかしさから言えなくて、ギュッと下唇を噛みながら小さく頷くと、仙道さんは「すげー嬉しい」なんて言って私の唇をまた奪っていった。






『仙道さんこそ...本当に私の事、好きなの?』


「うん。好きだよ」


『高木さんとは...?』


「あのさ...さっきから言ってる高木さんって誰なの?」


『...え?ほら...総務の可愛い子よ、昼休み話してたじゃない』


「あー、あの子高木さんって言うんだ...」






「あの子も、牧さんのこと狙ってるらしいよ」なんてクスッと笑った仙道さんが私の唇に軽くチュッと吸い付いて「気になるの?」と、意地悪そうに笑っていく。私は『仙道さんと高木さんが付き合ってるって噂があったのよ...』なんて言ってバツが悪そうに口を尖らせた。仙道さんは「馬鹿だな...」と、困った様に笑って、すぐに私を抱き上げると「ベッド、どこ?」なんて私に優しく問いかける。私の心臓はこれからされる事を期待しているみたいに早くなっていって、問いかけられた言葉に『1番奥の部屋...』と仙道さんの顔を見ないまま呟いた。仙道さんは「わかった」なんて囁くみたいにそう言って、私を抱き上げたままベッドへと連れていく。どんどん早くなっていく私の心臓の音が煩いくらいに高鳴って、同時に胸が熱くなる。私が酔っているからなのか仙道さんの体温が、いつもよりも近くに感じて、私の身体も応えるみたいに熱くなっていくのと同時に、仙道さんが私をベッドに優しくおろしていく。私がベッドにおろされた瞬間に、部屋の電気をつけていないせいで見えない筈の仙道さんの顔が、ベッド横のカーテンの隙間から漏れ出た街頭の明かりで照らされていって、私の胸を余計に熱くさせるみたいだった。




「花子ちゃん」


『な、何よ...』


「俺...一晩限りでも、仕事の後輩でも、牧さんの代わりでも嫌なんだ...良かったら俺を花子ちゃんの恋人にしてくれる?」






そう言って困った様に眉を寄せた仙道さんに『仕方ないから...私の恋人にしてあげる』と、自分で言った言葉なのに顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。こんな時でも素直に言えないなんて...私って本当意地っ張りにも程がある。なんて思っていたら仙道さんがあはは、と笑って「花子ちゃんらしくて...すげー可愛いよ」と、私の唇を奪っていった。そのまま私のスーツを仙道さんが脱がしていくのと同時に、仙道さんの舌が私の口内へ滑り込む。応えるみたいに舌を絡めていくと、私の口からは甘い声が小さく漏れ出ていった。







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