Chapter 1


「仲間割れなら余所でやれよ」

 皇帝派の者が繰り出す剣を受け流しながら、ヴァースナーは肩をすくめてみせる。
無様な剣劇が石畳に積もった雪を踏み荒らし、風に流される雪が剣戟を叩き落とした。ヴァースナーの目に映る背の低い壁は、敵を迎え、味方を抉り、逃げることもできずに得物を振り上げている。真剣にして滑稽な劇が繰り広げられている広場は、取引の舞台を日常とするロダの中枢でたるというそのことをもって、日常から切り離されたところに鎖されているかのように見えた。
 深緋が剣を振り上げる。横に身を滑らせようとしたヴァースナーの肩を、回廊に並ぶ飾り物のように佇んでいた鎧の指が掴んだ。ぎこちなく、億劫そうに、野外に置かれた儀礼用の鎧は、舌打ちを零すヴァースナーを迫り来る剣の盾とする。肉の盾とされた傭兵は、身の均衡を崩したまま、自棄になったかのように、狙いを定めず蹴りを繰り出した。吹雪に溺れているかのようなその蹴りは、ひどく無様なものだったが、斬りつけてきた深緋の不意をつき、その胸を蹴り飛ばす。降りしきる雪に取り乱れる色彩に、深緋は背中から飛びこんでいった。身の安全が確保されたと見るや、鎧は盾を放り出す。馬の嘶きが、ヴァースナーの耳を叩いた。色鮮やかな壁たる浅く肉を抉る剣舞を蹴散らして、主のいない馬が突進する。乱闘のなれの果てに埋められていたヴァースナーは、眼前の若者を蹴倒し、馬の鬣を掴んだ。紫黒を羽織る傭兵は、暴れる馬に追い縋り、石畳に伏す者を踏み台にして、跳ねた。そして、首を振り乱して跳ねる馬にしがみつく。
 馬の腹を這い上がろうとしたヴァースナーの足首を、鎧の指が掴んだ。地を一瞥したヴァースナーの口の端が、笑みをつくり損なって、引きつる。

「冗談だろ」

 ひとり撤退しようとした傭兵を、石畳を這い摺る鎧が捕えた。兜の隙間から覗いた紅い唇が、傲然と、優美に吊り上がる。

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