Chapter 4
爪弾かれた弦が夜気を震わせた。その漣に歌が重なる。足首や腕で煌く装飾の鳴りが星空に散り、手拍子と笑い声が湧きあがった。
焚き火を人々が取り囲み、その周りを幌馬車が囲んでいる。夜を裂いて燃え上がる炎の前で、漂泊を宿とする隊商が、今宵も旅の一夜を歌い踊る。
あれはラミズがカリィの一隊を任され始めた頃で、双子が十歳になったかならなかったかくらいの頃だ。俺はクラエス・エストバリと一緒に各地を回っていて、街と街の間を繋ぐ道中を、カリィの一隊とよく同行したものだった。
炎を中心とした二重の円陣の外側、木の根に腰掛けて夜空を仰いでいると、幌の影からラミズが顔を出した。
「こんなところに独りでいると、獣に喰われるよ。もしくは身包み剥がされる」
酒杯を片手に近づいてくる男の声は楽しげで、明るい。おそらく酔っている。楽しく酔えるのは才能だ。
俺と並ぶように、ラミズは直に地に座った。俺は溜め息を吐く。
「酔い覚ましに夜風を求めた結果だ」
「一応、野宿なんだけどなぁ」
「知ってる」
そう断言すると、機嫌を損ねちゃったみたいだと笑われた。酔っ払いの男はひどく楽しそうにしている。機嫌を損ねたわけではなかったのだが、そのように見えたらしいことは仕方ないとしても、笑われ続けることで機嫌が悪くなってきた。ひとりで楽しそうにしているラミズに腹が立つ。腹立ちついでに立ち去ろうとすると、前を向いたラミズが声を響かせた。
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