Chapter 4




 橙だったり紅だったりするものが、壁を這い床を舐める。それらが生み出す熱によって、目の前がゆらめき、柱が焦げる。夜を跳ね返すそれは炎と呼ばれるもので、やっとのことで部屋から這い出た廊下には、昼よりも鮮やかで灯よりも艶やかな光と熱が満ちていた。
 屋敷を喰らう炎がもたらした煙を吸いこみかけて息を停める。少しだけ離れたところに炭と化した梁が落下して、砕けた破片が籠もった火種を撒く。産毛が逆立ち、肌が痛い。ひりつく喉に咳きこんで、ふらついた。壁に手をつこうと触れた一瞬、それは触れられるようなものではないと知り、慌てて手を引き剥がす。壁に籠もる熱によって火傷を負ったか皮膚が剥がれたかしたかもしれないけれど、周囲に充満する熱のせいで判断がつかなった。
 外に、出ないと。
 どこへ向かえばよいのかなど判らなかったけれど、ここにいては火に呑まれることだけは確かだったから、頭に叩きこんである屋敷の間取りを頼りに前に進む。
 崩れ落ちる柱の軌跡を火の粉が追う。逆巻き渦を巻いて上昇する炎が目にちらついて煩わしい。
 重いだけの身体を引き摺って、それでもこんなところで燃え尽きる気など更々なかったから、肺いっぱいに吸いこめる大気を求めて燃え崩れる廊下を彷徨っていると、不意に足首を掴まれた。焦げて灰と成りかけている屋敷だったものの断片が、半開きの扉を内側から押し開けるように積み重なっている。僕の足を留めた腕は、融けるような紅を火種として孕む、折り重なる燃え落ちた柱や梁から伸びていた。

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