短編 | ナノ

 02


俺には、家族がいない。
全員、早死にしてしまった。
母は俺が生まれて、父は俺が大学を入学すると同時に亡くなってしまった。
それなのに……俺の弟を名乗る「幽霊」が居る。
頭がおかしいって? 俺もそう思うけど、本当なんだ。


「兄さん、今日は仕事?」
「……話しかけるな」
「ふふふっ…兄さん」
「うるさい!」


――誰も見えない、弟を名乗る幽霊。幽霊を視えるかと言えばそうではなく、この弟――幸太と名乗る年齢不詳の青年(外見は学生のようだが、幽霊だから分からない)は、俺が生まれたころからずっと隣に存在した。幼い頃は、無邪気に「遊んでくれるお兄ちゃん」として慕っていた。だが、今は亡くなってしまった父には見えない。誰か分からない存在と喋るたび、父は顔を真っ青にして「千年の呪いだ……」と呟いていた。


 すべてが分かったのは父が亡くなった後だった。実家の書物を整理していると「古い日記」を見つけた。英語で書かれておりずっとそばに居る幽霊は平然と「ああ、あのクソ女の日記だね」と言った。それには――


自分の夫は弟が見えない、認識出来ないこと。
それは病気のせいで彼自身、自覚していないこと。
弟は彼に妄執していること。
自分が目の敵にされていること。
彼が弟に殺されたこと。
――弟は自殺し「悪魔に願った」こと。



『この命持って千年の時を経、兄と魂として繋がりを持つ』



魂として繋がり――それは、弟が幽霊として俺に憑いていることで、果たされていることを、身を持って知った。


自分の命と代えてまでも、兄に執着……俺には理解出来なかったがともかく。


……この幽霊、幸太が、俺の背後霊としてずーっと俺が死ぬまで付き纏うことはよぅく分かってしまった……。




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