短編 | ナノ

 15歳


分からない。
分からない。
分からない。
分からない。
俺には弟がいる、らしい。
周囲が口々に「君の弟は優秀だね」と誉めるけど、俺にその弟は見えない。
俺の弟はとんでもなく優秀らしい。二つ下で、学年首席で、線は細いが吹奏楽部に入っておりフルートを弾く。それに人懐っこくて、人に好かれる。顔も綺麗で整っていて美形。
それが俺の弟。俺には見えない弟。
一度、弟が俺のクラスに来たことがあった、らしい。
弟は吹奏楽部の先輩――彼は俺の友達でもある――に吹奏楽部の連絡に来た。その時俺も呼ばれたのだ。冗談や茶化しで「弟が会いに来たぞ」と。
俺は「弟…」と呟いて彼が弟と話しているであろう方向を見た。だが、誰もいない。いつも通りだ。みんなが弟を認識出来るのに、俺は認識出来ない。
乾いた笑いを浮かべながら「そこに、俺の弟居る?」と周りのクラスメイトに聞いた。
みんな口々に「居る」と答え俺は恐る恐る「見えない」と口にすると笑われた。
「なんだよ、兄弟喧嘩でもしてるのか?弟をいじめるなよ」
「……うん、ごめん」
変な風に思われるのが嫌で、謝るしかない。
弟は俺の教室を去り際、「兄さんごめんなさい。僕が悪かったから許して」と言ったらしい。
帰ったあと「弟謝ってたぞ」と言われて「え?なんて?」と聞き返して「おまえ……意地悪な兄貴だなぁ」と呆れられてしまった。
許しても何も見えないし何も聞こえなかったんだから、許せるわけもない。
本当に弟は居るんだろうか。
一緒に暮らしているはずなのに、気配すら感じない。
ああ……家と言えば、そう。
最近、メイドの入れ替えが激しい。
執事にどうしたんだと聞けば「……不真面目な者ばかりでして」と誤魔化された。選んでいるのは、この家に長年仕えている執事なのだから、それが不真面目なわけがない。彼の人を見る目は確かだ。
――これも、弟のせいだろうか。
分からない。
分からない。
分からない。
分からない。




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