短編 | ナノ

 04


<女子トイレ>


はぁ、と重いため息をつく。トイレの鏡を見て、現れてきた目尻のシワに気付く。自分も年を取った、と感じる。


まだまだ20代後半なんて若い、と思っていたけど、ここ一年で友達から届く結婚式の招待状を見て焦った。


彼と付き合うようになって、数年。


どこか変わってて可笑しな彼だけど、一緒に居て楽しい。いつも、忙しいけど連絡はマメにしてくれる。今日だって競馬場だけど、「どこかにいきたい」という私のワガママを聞いてくれた。


変だけど、優しくてあったかい彼。


そんな彼と結婚したい、と思うのは当然で、これを逃したらもう結婚出来ないんじゃ……と焦る。


20代後半でそんなに焦ることはないんだろうけど……彼は私のことをどう思っているのだろう。ただの彼女? 嫌いな要素が沢山あれば、もう簡単に切ってしまうような、ただの女?


彼と将来のことは考えられないのかな……。


「ああ!! もう……」


ダメだ。最近彼に会ってなくて、不安だったのもあり、しかも何の脈絡もなく競馬場なんか(競馬場で馬に人生をかけてる人ごめんなさい)に連れて来られたから、嫌なことばかり考える。うん、そんなに焦らなくても良いじゃないか。まだ(シワが現れてきても)20代後半なんだし!


焦ることはない。前向きに――……。



プルプルプル……と、携帯が鳴った。


「はい?」
『いまどこいんだよ?』


かけてきたのは、彼で名乗らずいきなり用件を言う。


「トイレって言ったじゃん」
『そうだっけ。良いから、早く戻って来いよ。最終レース、始まる』
「えぇ……うん……分かった」


彼は、絶対来いよ! バックレるなよ! と言って電話を切った。私は、呼び出しを受けたいじめられっ子か。あと、『バックレる』って死語だと思う……。細かな突っ込みを心の中でしながら、女子トイレを後にした。




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