自分と言う人間は自己評価では測れない
他人になって初めて有効だ
その人の心の奥を知りたいなら
まずは自分のまなこを確りと開いて
――己の心のままに従うだけだ
第三者の評価など、それこそ疑う
▼拒否反応...カタカタと機械を弄る音と紙をめくる音が聞こえる
その音は確かに人間がいる事を伝えているのに、部屋は異常な静寂に包まれていた
少し張り詰める空気にさすがに嫌気がさす
この状況はかれこれ2時間近く続いている
そろそろどっちかが痺れを切らして叫び出してもいいくらいなのだが、その二人のうち一方は沈黙することには秀でていた
言わずもがな玲夜、彼女の事だ
休むことなく目の前のキーボードを叩く姿はこなれているようで、目線はじっと画面に向いている
その間、先に言った通り何も言わず沈黙を貫きとおしていた
もう一方のスクアーロのほうは最初こそ何食わぬ顔で作業に没頭していたが、さすがに限界と言わんばかりに少しずつイライラを募らせていた
それは殺気となり玲夜のほうにも伝わってきた
「う゛おぉい!!てめぇ!いつまでいる気だぁ!!」
『…この書類が終わるまで』
「だったら自分の部屋でやりゃあいいだろぉがぁ!!」
『非効率的になるだけ無駄だ。なら一緒にやっていたほうがいいだろう』
目線を動かすことなく顎でついと差す方向には、昨日罰として預かった大量の書類。
一人あたり50部あたりの書類にめまいがする
そこで二人で分担して行うことに決めた
私は書類制作。スクアーロは書類書き。
私はまだ此処に来て日が浅い為に、書類に手を出したこともない。
なのでマイクロチップにあった書類の前データを手本に、書類を制作していたほうが早い
スクアーロは慣れているのか、黙々と作業していたがこの事態だ
私は大声を出して喚き散らすスクアーロに、目を細めた
私は初めて会ったときから、スクアーロという人間は嫌いだった
あの研究者とはまた違った嫌悪感を抱いた。
男なのに長髪をたなびかせ大声で怒鳴る姿は、あの妹まがいの半獣をもビビらせたほど。
だが私にとってはただの喧しいにすぎないのだ
たぶん奴の言動、行動を見る限り、奴も奴で私の事が嫌いだ
誰にでも好かれたいなんて願望は毛ほどもない。ただこれから仕事していくこととしては結構厄介だな、と思った程度だ
「ちっ!無愛想な餓鬼だぜぇ!」
『愛想があったら殺し屋は勤まらん』
「ザンザスの命令とはいえテメェの事は絶対認めねぇからなぁ゛!!」
『……こっちこそ。それにしても此処までの書類をよく溜めていたな』
「う゛おぉい!!これはベルが溜めた書類だぁ!」
『……どうだか』
「う゛おぉい!!かっさばいてもいいかぁ!!?」
負けじと嘲笑で返せば、いつの間に装備したのか左手には物騒な銀の煌めき
そのままそれを振り降ろしそうな気迫で床を片足で踏み鳴らした
めんどくさい事になった。
いつもザンザス…ボスと一緒にいる時に沸点が低いなと漠然と思っていたが…
猛るスクアーロを横目に私は静かにため息をつく。
『…ボスにかっけされたくなければ、静かに仕事に戻ることが賢明だ』
「ちっ!!」
下の階にある談話室を危惧してさらりとこともなげに言ってやれば、悔しそうに歪む顔
私はやっぱりコイツの事が嫌いらしい。
“剣士”ということもあって、私には悪いイメージしかない。
そしてもう一つの要因もがあるが…
私の中にある嫌悪感は静かに肺の辺りに溜まる
――本当になぜあの時、コイツを守ろうと思ったのかは分からない
あの時の私自身に何故、と問いかけたいぐらい
大きく舌打ちして、大きな物音を立ててデスクワークに戻るスクアーロを気配で感じつつ、私はパソコンに視線を落とした