絵画屋
街の中心部から外れた郊外。高級、とは言えないけれど様々な家が建ち並ぶ住宅地。さらにその奥の古びた小さな洋館、ソレが『絵画屋』だ。黒塗りの重い扉を押し開ければ薫る木の独特な匂い
「いらっしゃいませ」
柔和な笑みを浮かべた亭主が金色の額縁を手に出迎えた。壁には一面の額縁が飾られている。絵が入っているモノはひとつもない
「ようこそ、絵画屋へ」
客人が戸惑うように額縁のみが飾られている部屋を見回していると亭主は笑みを深めた
「当店は絵を彩る額縁を扱っております」
窓のすぐ横に手にしていた金色の額縁を掛けて満足そうに頷いた
「お客様は御存知でしょうか。絵は、描かなくても絵に成りうるのですよ」
意味を理解仕切れない客人が首を傾けると亭主はそうですね、と客人に歩み寄った
「例えば…、この額縁をお持ちください」
亭主は床スレスレに掛けてある象牙色の額縁を客人に渡した
「そちらを好きな位置で持ったまま固定してください」
客人は言われた通り額縁を持ったまま色んな方を見て階段を背景にした場所で止まった。何故かそこが気に入ったのだ
「もう動かしても大丈夫ですよ」
視線は額縁の中のまま腕を下ろした
「…!?」
客人の手の中には先ほどと変わらず階段を背景にした額縁があった。足元に向けているのに、だ
「お客様、どうかなさいましたか?」
亭主は愉快そうに口角を上げた。客人は階段に目を向け、さらに呆然とした。階段は額縁に映っている部分が空白になっていた。何もない筈の額縁には、今、階段の絵が入っていた
「お分かり頂けたでしょうか。絵はカンタンに出来るのでございます」
「お客様はどのような絵をお望みですか?」
一度絵になればもう元に戻る事は、
2010 02 22
ススム モクジ