幼稚園児の方が大人かも知れない

 
「あ、あかーしくんだあ!」

次の授業が移動教室だったため違う棟の校舎へ向かっている途中、間抜けな声がどこからか聞こえた。
声の持ち主に嫌な予感がして、そのままスルーしようかと思っていると次の声でそれは無理だと察する。

「え、あかーしどこ!?どこどこ!?」

さっきの聞こえた声より大きい声で、明らかに俺を探しているだろう声の持ち主は無事に俺を見つけたみたいだ。

「あかーしぃ!なに?移動教室なのか!?」
「あかーしくんも一緒にサボろーよ!」

呑気な事を言いながら、俺に駆け寄ってくる2人。
部活の先輩の木兎さんと、その友人名字さんだ。
黙っていれば可愛らしい顔立ちをしているのも関わらず、少し浮いているのは木兎さんのせいだと思う。

「…何してるんですか?」
「「水遊び!!!」」

声を揃えて楽しそうに言う2人にため息しか出ない。
高校3年生にもなって、水遊び。しかも見た所2人ともなかなかはしゃいだのであろう。木兎さんに至ってはずぶ濡れだ。

「いくらあったかい時期とはいえ、風邪をひきます。すぐに着替えて下さい。」
「えー!!まだ遊びたんねぇ!」
「あかーしくんも来たばっかじゃん!」
「……名字さん、俺は貴方達と水遊びしませんよ」

俺の言葉にわざとらしくガーンっと言って反応する2人。この2人の精神年齢は幼稚園児並みしかないのか?いや今のご時世、幼稚園児のがもしかしたら大人かも知れない。
目の前の幼稚園児を見てため息が出る。
あまり関わっていてもいい事がないのでその場を立ち去ろうとすると、色白の手が俺の腕を掴む。

「えー、少しだけ遊ぼうよ!!ね?」

そう笑顔で言う名字さんに思わず笑顔が溢れそうになる。裏表のない笑顔。
水遊びのおかげで髪の毛も少し濡れ、その滴がキラキラと太陽のお陰で輝いている。

ああ、本当にこの人は

「ダメです。名字さんも風邪を引いてはいけないので着替えて下さい。とりあえず俺のハンカチで申し訳ないですが、これで少しは拭いて下さい。」
「あ、ちょ、顔は擦ったらダメ!化粧がハンカチに付いちゃう!」
「別に構いません。」

でも〜と不満げな名字さんが可愛くて、ついわざと顔を拭いてしまう。
心のどこかで時間がとまればな、と思っていると忘れていたある人の存在。

「あかーし!!俺は!?俺の心配は?」
「木兎さん、風邪ひいて監督に怒られても俺は知りませんよ。失礼します。」
「俺、あかーしの先輩なのに…」

いつものしょぼくれモードになった木兎さんを見てケラケラと笑う名字さんに「それでは失礼します」と言いその場を去ろうとする。

「あかーしくん!」

振り返ると、手を大きく振りまたあの笑顔を見せる名字さん。

「ハンカチありがとう!いつか返す!!」
「いつかって何ですか。そこは普通すぐ返すじゃないんですか?」

俺の言葉に、またケラケラと笑う名字さん。
その笑顔を見ると、立ち去るのが少し嫌になる。

「あ、名字!生活指導の先生来てる!!」
「げ、ほんとだ!木兎、逃げよ!!」

じゃあね、あかーし(くん)!!と2人して慌てて逃げて行った。

嵐みたいだな、あの2人…

ギャーギャーと騒がしい声が小さくなるのを感じ目的の教室へ足を進めた。





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